劇場公開日 2024年4月19日

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「「利他する幸福を」から遠い今の世界情勢」死刑台のメロディ KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5「利他する幸福を」から遠い今の世界情勢

2022年6月4日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

かつてロードショーだったのか、
名画座でのものだったのか、
定かではなくなったが、
いずれにしても何十年ぶりかの鑑賞。

当時はそんなことを思いもしなかったが、
今回の鑑賞でまず驚いたのは、
この作品は伊・仏映画なので
本来は当たり前なのだが、
イタリア語中心で描かれた米国舞台作品
ということで妙な違和感があった。
この物語、実際に交わされた言葉は
英語が中心で補助的にイタリア語が、
なのだろうが、
興行上の理由から作品の舞台を問わず
英語を前提に制作される映画を観ることに
慣れているくせに、
逆のパターンには違和感を感じる。
間違った感覚なのかも知れない。

更に思い出されたのは、かつての鑑賞で
この作品の原題名が二人の名前
「サッコとバンゼッティ」
であることを意識した記憶だった。
若い頃は「哀愁」「俺たちに明日はない」
「明日に向って撃て!」等々、
たくさんのタイトル改変作品に接していたにも関わらず、
タイトルバックもろくに見ないでいたので、
タイトル改変を知ることなく
鑑賞することが多かった。
しかし、この鑑賞から、
改変タイトルでの興行も
多いものなのだなあ、と
意識しだす切っ掛けとなった作品だった
ことも思い出す。

内容としての若い頃に鑑賞した時の記憶は、
ただただ理不尽な判決への憤りだったが、
この度はこの作品の現代的価値を認識する
鑑賞となった。

サッコの死刑執行直前の息子への書き置き
「利他する幸福を」の言葉が重い。
共産主義体制国家も、この精神を忘れて
国民の精神的幸福を奪った。
民主主義の行き渡ったように思える多くの
資本主義諸国でも、
人種差別やイデオロギーの異なる
グループへの理解が及ばず、
結果、他人の幸福を己の喜びとする精神を
見失い国内の混乱を招いている。

理不尽にも、
「利他する幸福を」を忘れた強大国家が
暴力で隣国を蹂躙する。
こんな時代だからこそ、
今こそ観るべき作品のように思えた。

KENZO一級建築士事務所