「夫殺しのストーリーなのに、世紀の悲恋に思えてくる不思議!」死刑台のエレベーター(1958) 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
夫殺しのストーリーなのに、世紀の悲恋に思えてくる不思議!
ラストが秀逸!!
じいッと写真をみつめるジャンヌ・モロー。
恋人ジュリアンとの愛の記憶が写真には焼き付いている。
(これは現実の愛より、数倍も数10倍も美しいもの)
(うつろいやすい愛が、固形物になり、時間が止められている)
(フロランスもジュリアンも、なんの汚れない恋人たち)
『死刑台のエレベーター』はルイ・マル監督が25歳で1957年にこの映画を
撮りました。出世作です。
『世にも奇妙な物語』(1967年)の中の1話。
『プリティ・ベイビー』(1978年)
『ダメージ』(1992年)を観ています。どの作品もルイ・マルらしい・・・
そういう共通点はありません。
『死刑台のエレベーター』
題名の衝撃性。マイルス・デイビスの音楽(トランペットのソロ)
そしてジャンヌ・モローの美しさ。
私はジャンヌ・モローを美人だと思ってなかったです。
小柄、痩せっぽち。唇の端を歪める癖。しゃがれた低い声。
リアル・タイムで知った時は、お婆さんだったせいもあるけれど、
カトリーヌ・ドヌーブやオードリー・ヘップバーンを美人だと
思ってました。
はじめて観た映画は、
『ニキータ』の教育係りの女。
それから、
『愛人/ラマン』の声の語り(マルゴリット・デュラスの声の役でした)
しかし、はじめて見た時から、頭抜けた才能でした。
この映画のモローは美しい。
恋人ジュリアン(モーリス・ロネ)もとても美形。
待ち合わせ場所に現れないジュリアンを探してパリの夜道を歩き回り、
突然込み上げる感情に涙がツツーっとひとしずく流れます。
恋する女の激情が、涙の一滴にこもります。
社長夫人のフロランスとジュリアンは社長を殺して、2人は幸せになるはずでした。
計画は完璧でした。
密室殺人にみせるトリック。
社長室の部屋の鍵をナイフでうまく閉めて逃げるジュリアン。
しかし、侵入に使ったロープを回収するのを忘れて、
引き返したエレベーターに閉じ込められる羽目になります。
ここから映画は意外な展開をみせます。
止めておいたスポーツカーに花屋の娘とその恋人のチンピラが、
乗り込んで勝手に高速を乗り回して、挙句にドイツのメルセデスベンツに乗る金持ちと
カーチェイスをした挙句に、同じモーテルにチェックインして、パーティを
楽しむことに。
チンピラの若者は、ジュリアンの車、コート、小型最新式カメラ、そして拳銃・・・
拳銃まで自分の所有物にします。
そして名前(ジュリアンの姓のタベルニエまで、名乗ってしまう)
ルイ・マル監督。
伏線の回収も実にお見事。
モーテルでドイツ人の若妻が、
「フイルムが3枚残ってるわ!」と、若者と夫のツーショットを撮ります。
この写真が、動かぬ証拠写真になるのです。
小ネタも隅々に伏線が張られます。
ジュリアンのスポーツカーが若い娘を乗せて走り去るのを、フロランスは目撃。
(運転席は見えないのです)
最後の証拠写真の提示も、見事です。
鳴り響くマイルス・デイビスの虚無的なメロディ。
ひとつの拳銃は2組の恋人たちの破滅を演出します。
ハードボイルドなノワールの傑作。
今観ても、色褪せることなく、ドキドキしました。
琥珀糖さん、コメント有り難うございます。観る前はよくある不倫の末の夫殺しもの、と思っていたら一人の女の狂おしいまでの恋を描いた映画と分かり感動した次第です。ジャンヌ・モローの映画を何本も観ていられるとのこと。私は映画ファンを自認しながら未だ『恋人たち』も『突然炎の如く』も『エヴァの匂い』も観てません。いやお恥ずかしい😅