「映画でしか成しえない金字塔。」死刑台のエレベーター(1958) とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
映画でしか成しえない金字塔。
サスペンス映画ではありません。
ある女性二人の愛の軌跡を描いた映画。
年令も、境遇も違う二人。共通しているのは「離れ離れになるくらいなら死んだほうがまし」という想い。
主軸の、不倫カップル。
サスペンス的な要素はツッコミだらけの計画なのだけれど、思いがあればということか…。
携帯電話がなかったころはこうだったんだよなとやるせなくなるような二人の逢瀬。
そこで、カララ夫人がとった行動。その様が忍びない。
不倫相手を疑い、でも信じたい。そのすがりつくような、錯綜する思い。
ドアマンが思わず傘を差しだしてしまうような上流階級然としたそのありようが、
娼婦と間違われて警察に連行されるまでになってしまう、そのなりふりのかまわなさ。
ーそこまでやったら不倫をばらして回っているようなものだが、それすら気が付かないほどの狂おしい想い。
人を愛したことがあるのなら、失いかけた愛を追いかけたことがあるのなら、
フロランスのこの想いが身に染みるのではないだろうか。
とはいえ、こんなシーンを延々と見せられると、普通なら飽きてきてしまうが、
ジュリアンの場面、もう一組のカップルの場面を織り交ぜながらも、
モローさんの演技と映像の美しさで魅せ切る。
映画でしか表現できない珠玉のシーンだよなあと唸らされる。
ここでのフロランスの想いにどっぷりはまって迎えるラスト。
サスペンスの決着としてみるとツッコミどころ満載だが、
フロランスの愛の軌跡としてみると、胸が痛くなる。
企業スパイのようなことをしているのかと冒頭に思わされたジュリアンのカメラに残っていた写真。それが切なくて…。
フィルムで写真を写していた時代。現像液の中から浮かび上がるもの。
デジタル写真では味わえない間。
刑事のセリフ。
フロランスの独白。
その突き放したようなあっさりとした終わり方が余韻を残す。
ここも映画でしか表現できないシーンだなあと唸らされる。
そのフロランスと対比的に描かれるのが、もう一方のヒロイン・花屋の店員ベロニク。
恋人ルイに振り回され、犯罪に巻き込まれていく。
やんちゃなルイを思いやる姉のような存在。
大きな愛くるしい瞳が印象的。
愛ゆえに恋人を犯罪に駆り立てるフロランスとの対比が、一種の清涼剤。
でも、二人は基本同じ。恋人との幸せを夢見ていただけ。
穴だらけの計画。不用心すぎる振舞い。ここはジャングルではないんだぞ。
そして、何も考えていない、感情と欲望と、劣等感だけで突っ走るもう一つの犯罪。
だから、かえって、この話がどうなっていくのか、ー糸の切れた凧?ねずみ花火?ー。
ハラハラ。
取調室の演出も魅せる。
背景黒一色。まるで、舞台のような。地獄の一丁目のような。非現実さ。
そんな映像・演技を彩る音楽。マイルス・デイヴィス氏の、映像をみての即興演奏。
だからか、ちょっと不安定さがあり、この映画の危なっかしさを際立たせる。
そして、即興ならではの疾走感。臨場感。
この奇跡のコラボ。
映画でしか成しえない業。
ストーリー的にはツッコミどころが多いにも関わらず、
映像×演技×音楽。
他にまねのできない金字塔。
原作未読。