「古代ローマの退廃的な社会を旅する若者を現代に共鳴させたフェリーニ監督のニューシネマ」サテリコン Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
古代ローマの退廃的な社会を旅する若者を現代に共鳴させたフェリーニ監督のニューシネマ
「アマルコルド」「道」と観てきたフェリーニ作品の、今度はそれらとは全く違う時代と内容に当惑しながらも、この紀元前のローマを舞台にした学生が体験する放浪の旅に圧倒されながら観ることになった。主人公エンコルピオが予想もしない事件や出来事に遭遇するストーリーには、一貫したものはない。だから論理的な解釈は浮かばないし、物語というより動く古代絵巻の絵画を鑑賞する面白さに終始している。ここにあるのは、酒池肉林と背徳的な性に象徴される古代ローマの退廃的で享楽的な人間の赤裸々な姿。それを映像に再現したフェリーニ監督独自の世界だ。建造物や奴隷船の巨大セット、貴族から奴隷までの色鮮やかな衣装、そして様々な人たちを登場させる背景のスケール感などが、フェリーニ監督の豊かなイマジネーションによって見事に創作されている。見世物映画として、個性的かつ贅沢な巨匠の作品。
それでも、この映画のフェリーニ監督には、アメリカ・ニューシネマに対抗したエネルギーを感じた。学生運動が激しい時代に偶然制作されたからかも知れないが、若者を主人公にした社会派映画を古代ローマの時代で気兼ねなく自由自在に描いたようなフェリーニ監督の奔放さと若さがある。その感性は、若い映画作家に負けていない。この点で、この作品はフェリーニ映画の中で特別な価値をもっていると思う。
1977年 5月24日 池袋文芸坐
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