「CGが無くてもこんなに、怖く見せる工夫が随所に生きている作品は驚きだ!」サイコ(1960) Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
CGが無くてもこんなに、怖く見せる工夫が随所に生きている作品は驚きだ!
映画「ヒッチコック」はヒッチコック監督の代表作の一つで有る「サイコ」の撮影過程を再現しながら、ヒッチコック監督がどんな人物であったのか、その人物像に迫る作品だ。
そこで「ヒッチコック」を観る前には、再度「サイコ」を観直して観る必要が有り、見直ししたが、これが50年以上も前に作られた作品とは思えない面白さと驚きがあった。
私は、30年以上も前の学生時代に観たままだったので、細かいシーン迄は全く憶えていなかったが、改めて今観ると、この作品がいかに優れている娯楽サスペンス作品であったのかが、覗える映画だ。
音楽の使い方や、カメラワークの数々は言うに及ばず、編集等々、50年も前に、良くこんな難しい映画を只只撮ったなと感心するばかりであった。
あの、有名なシャワーシーンでも、ナイフを振り下ろすカットと、マリオンのショットを交互にテンポ良く見せる事で、ナイフでマリオンを切り刻んでいる様に見せる事に成功している。そして、アメリカ映画とは言え、あの時代は、未だ女性の全裸をスクリーンでは決して映せないのだ。その事を思えば、あの大胆なシーンを撮影した事は、映画の新しい1ページを塗り替える歴史的な作品であったと言える。
そして、ラストは、あの繊細で優しそうなノーマンが実は、多重人格の殺人鬼だったと言うストーリー自体が、あの時代にあっては、信じ難いホラーになるのだろう。
今日的な目でこの作品を観ると、全く映画よりも、現実の日常世界の方が、衝撃的な事件も起きている為に、今さらこんな映画を観ても驚きもしないと言う若い映画ファンもいる事だろう。
しかし、この映画が遥か半世紀以上も前に制作されていると考えると、やはり数々のチャレンジに挑んだ映画である事を実感させられる。
そして、何よりも恐いのは、善良な普通の人間でも、魔が射すとお金を横領する事が有る恐さを見せる事で、観客が自分の分身としてマリオンを重ねて観る訳だ。
非常にヒッチコックは、観客の心理状態を巧く計算し尽くしていると言える。
今では、CG撮影の特殊技術で、幾らでももっと高度な撮影を可能にする事が出来る為に、アラばかりが目に付いてしまう方も中にはいるかも知れないが、この作品に於いては、綿密なカメラワークを計算し、そしてその効果を出来得る限り最大限に利用し、そして尚且つ、観客の深層心理を巧く逆手に利用する事で、観客の関心をこの作品に取り込んでいる点ではお見事である。クラッシック映画の中には、色褪せて見える作品も中にはあるが、しかし、この「サイコ」に限っては、今でもサイコ・スリラー映画の基礎を作った作品として、評価されるべき作品だ。
そして、この映画の最大の魅力は、ノーマン役のアンソニーパーキンスの素晴らしい演技が有っての事だ。彼は50年代から、60年代にかけては非常に売れていた俳優で、59年には、日本では今直女性の人気を集めているオードリー・ヘップバーンの「緑の館」に出演していた他、ジェーン・フォンダや、「カサブランカ」の伝説的な名女優のイングリットバーグマンと「さよならをもう1度」で共演し、S・ローレンとも共演した素晴らしい俳優だ。
しかし、この作品のイメージが余りにも衝撃的な為に、このシリーズ役を何作も演じ、サイコホラー俳優のイメージが定着してしまった事は災難だっただろう。今で言うならイケメン俳優だった彼に、ホラー映画スターのレッテルが張られてしまったのだから、アンソニーにしてみれば、俳優人生が狂う恐怖の作品となってしまった訳だ。ショービジネス界の難しさこそが、この映画を上回る恐い世界なのかも知れない。