「これが映画」サイコ(1960) スライムさんの映画レビュー(感想・評価)
これが映画
こんなにも娯楽的で面白いエンタメなのに、ヒッチコックの作家性がすごく色濃く出ている、まさに芸術作品でもあり、そんな映画に根性を叩き直されたような気持ちがした。
昨今の映画は、漫画や小説の実写化や元から人気のあるIPなどが、大衆向けのエンタメとして制作され、オリジナル脚本や独自の演出を貫く映画はインディーズなどで、作家性の強い作品としてコアなファン向けに公開されていると思う。
しかしそんなジャンル分けされた現代の映画産業や批評家・鑑賞者達の見方を一蹴りするように、ヒッチコックはエンターテインメントとして作家性を存分に発揮している。
この感覚は黒澤明の映画を見た時と近い。「羅生門」を見た時、そのエンターテインメントとしての出来栄えと作家性に強い衝撃と感動を覚えた。それと同じ感覚が、サイコを見終えた時に私に訪れた。
またこの映画は、王道の枠組みにも囚われていない。
三幕構成はシド・フィールドが提唱したシナリオの最も美しい形として、映画制作者の間では広く知れ渡っていると思うが、サイコのシナリオを三幕構成に当てはめることはできるだろうか?私はできなかった。
しかしそれでも、とても面白い。序盤は女が盗んだ大金をちゃんと持って逃げ切ることができるのかという緊張感で、画面に釘付けになりながら見ることが出来た。不気味な警官なども非常に良い。しかし急転して、女は何者かに殺されモーテルの店主がその何者かをかばい始めることで、店主は殺人を隠し通すことが出来るのか?という問と、探偵や女の家族たちは犯人を見つけることができるのか?という2つの問が新たに現れる。序盤の大金から内容は一気に変わっているのだ。
そしてサイコは群像劇でもないように思う。1つの事件を1つの時間の流れの中でシンプルに描いているのに、キャラクターもごちゃつかず、しかし沢山出てくるので満足感が得られる。
しかし、根底にあるテーマや1つの雰囲気のような物は変わることなく途切れることなくあるようにも感じる。縦横無尽にキャラクターを動かしストーリーを動かしながら、統一感のある映画として完成させているこの技術こそ、作家性であるのだろう。