劇場公開日 1998年7月11日

「本作はゴジラ映画としては黒歴史となってしまいましたが、ゴジラ映画とさえ思わなければ、なかなか面白いじゃないか!と再評価されるべき作品と思います」GODZILLA ゴジラ(1998) あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0本作はゴジラ映画としては黒歴史となってしまいましたが、ゴジラ映画とさえ思わなければ、なかなか面白いじゃないか!と再評価されるべき作品と思います

2022年7月17日
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鑑賞方法:VOD

1998年5月米国公開、日本公開は同年7月
ハリウッドゴジラの初代です
因みに2代目は2014年の公開になります
この初代の方がローランド・エメリッヒ監督版です

エメリッヒ監督の大ヒット作「インデペンデンス・デイ」の次の作品に当たります
「ユニバーサル・ソルジャー」、「スターゲイト」、「インデペンデンス・デイ」ときて本作です
オタク濃度が高くて中二病気味の作風の人です
ですから内容も興行も大変に期待の大きな作品でした

実際世界中でヒットしました
当時の円レートで170億円という巨額の製作費に対して500億円の興行収入を全世界で叩き出しています
日本国内でも51億円もの興行収入を挙げていて、これは昭和からミレニアムまでの全ゴジラ作品とモスラス作品の数字を上回り、殆どの作品の2倍、3倍の数字なのです
これを上回ったのは「シン・ゴジラ」の82.5 億円だけです
ガメラシリーズの一番興行収入の良かった第2作でも7億円に過ぎないのです
つまりゴジラ映画としても、怪獣映画としても、当時において史上空前の大ヒット作品であったのです

なのに、今ではどちらかというと黒歴史の作品です
糞味噌にいわれて、誰からも評価されず、触れないように扱われる作品になっています

自分も公開当時なんじやこりゃ!と憤慨したことを思い出します
だからまた観たいとも思いませんでした

ところが超ひさびさに観ると、どうでしょう!凄い面白いじゃないですか!
一体なんでこのように評価が逆転したのか自分もなぜだか良く分かりません

これはゴジラの映画だと思わなければよいのです
本作はゴジラのリメイクでも、リブートではないとと思えば良いのです
たまたまゴジラの名前を借りただけの映画だと思えばなかなかに楽しめる作品です

本作をゴジラの映画ではなくて、1953年の米国映画「原子怪獣現る」のリメイクだと思えば良いのです

その映画はオタクならご存知のとおり、最初のゴジラの元ネタになった作品です

そのように考えれば素晴らしい傑作です

物語は仏領ポリネシア
1968年6月から始まります
ここでフランスは1996年まで193回も水爆実験を繰り返してきたのです
この度重なる核実験の影響を受けてオオトカケが巨大化するという設定です
ここが本作のミソです
フランスの秘密情報部がアメリカ国内で暗躍というか、主人公に協力して大活躍するという脚本が秀逸です

怪獣がフランスの核実験によって生まれたというなら、怪獣を自ら始末してその過ちをもみ消そしてしまおうというわけです

この論理なら、アメリカの核実験で生まれたのが日本のゴジラなら、その始末に米国は責任があると考えるという論法が成り立ちます
シン・ゴジラの米軍の行動にはそのような解釈をすると理解できるものがあります

冒頭でイグアナを盛んに見せていますから、恐竜が南洋で生き残っていて、ティラノサウルスに似たゴジラザウルスが核の影響を受けて変異したという平成ゴジラの設定とは完全に別物です

大型の漁船コバヤシマルが襲われます
コバヤシマルはスター・トレックファンならニヤリとする船名ですね
狙ってつけていると思います
タンカーみたいな外見ですが船内の作業場では大量の魚が捌かれています
日本人が登場するのはこの漁船の船員だけです
あとはパナマのシーンで日本人ぽいテレビ取材陣が何人か写ったりする程度です

次のシーンは、ウクライナのチェルノブイリ
ウクライナ戦争では、ここがロシア軍に占領されて世界を震撼させたのはついこの間のことでした

1998年の当時、既にウクライナは独立国となっています
そしてプーチンはロシア連邦大統領府第一副長官に本作公開と同じ1998年5月になっています
同年8月にはロシアは財政危機でデフォルトしていました

そんな中、ロシア軍の大型ヘリがウクライナのチェルノブイリに我が物顔で着陸します
でもそのヘリから現れたのは米国国務省の人間でした
迎えに来られた若者も米国人で、後で原子力規制委員会の人間と分かります
大ミミズのシーンも実は伏線になっています

その次のシーンはタヒチ島の病院
ジャン・レノ登場です
この時は謎の人物、保険会社の人間という偽の身分です
大型漁船のただ一人の生き残りの日本人船員はゴジラとのみ話ます
この名前は日本の神話に登場する海獣の名前とされています

その次はパナマ、サンミゲル湾
パナマ運河から150キロ東南の太平洋側の湾です
超デカい足跡の見せ方が、なるほどハリウッド的です

主人公の上司になる中年女性は、もっとキレイなお姉さんにして欲しいもんだと思います
でもご安心下さい
彼女はヒロインではなく、中年の不美人なのも伏線の一つになっています

そして舞台はいよいよNY です
なぜか雨のシーンが多いです
どのシーンでもずっーーと雨が降り続けます
意図的です
演出によるものではなく単に合成のあらを目立たないようにするための工夫でしょう
合成を必要とするシーンは全て夜間、しかも雨が降って真っ暗闇にしてあります

ジャマイカでの謎の難破船
北アメリカ東海岸沖の米国漁船のエピソードが挟まってまたNYのシーンとなります
テレビ局の下っ端の女性が登場
彼女がヒロインです
これで主要人物の紹介はだいたい完了です

魚市場の桟橋でのじいさんの釣りからのゴジラ登場シーンは見事です
またマンハッタンをゴジラがのしあるくたびに人や車やフェンスが飛び上がるのはユーモラスで効果的です

この頃は誰もテロだ!と叫んで逃げ惑いません
いまから思えば幸せな時代でした

摩天楼の谷間を歩く下半身は見せますが全身は焦らしてなかなか見せません

間一髪踏まれなかったテレビカメラマンが失禁したと目の動きだけで感じさせる演技はなかなかのものでした

昔のパンナムビル、名前が変わってメットライフ生命ビルの真ん中がゴジラの身長で穴があいてその大きさを見せずに表現します

タイムズスクエアに魚の山を作っておびき出しする作戦でようやく全身を見せてくれます

一応ティラノサウルス形をしていますが、ゴジラの体型ではありません
「原子怪獣現る」のリドサウルスに近いと思います
もっとイグアナぽいイメージで勝手に記憶がすり替わってしまっていました

基本ティラノサウルスの巨大版なのですが、素早く動き回る爬虫類の特徴を強調した設定です
なので軍隊は戦車ではなく、ヘリで主に戦う事になります

素早く動きまわるのでミサイルが外れて、今はクライスラービルになっているエンパイヤステートビルに命中してしまい、最上部のタワーが崩れ落ちるシーンは気合いが入っています

しかし重々しくのしのしとゆっくり歩くゴジラのイメージとは全然違うのです
ただの巨大トカゲに過ぎません
放射能も火炎も吐きません

劇中で、ハリーウンゼンの白黒の怪獣映画がテレビで放送されているのがちらりと映ります
大ダコがサンフランシスコのゴールデンゲートブリッジに巻きつくシーンです
これは1955年の米国映画「水爆と深海の怪物」のワンシーンです

無性生殖、動物は繁殖のために遠くに旅をする、NY には巣作りにきたという設定です

セントラルパークにおびき出すというのは、平成ガメラ第1作の芝公園に落とす!を彷彿とさせます

ハドソン川河口に潜水艦が入るというのはトンデモ設定ですがまあ面白いから許せます
潜水艦アンカレジが同士討ちで沈没するものの、魚雷を1発ゴジラに命中させ仕留めます
アンカレジは架空の艦名ですね

ゴジラが長いトカゲの尻尾を揺らして泳ぐのはなんかイメージが違います
それに、たった魚雷1発でやられるゴジラなんてゴジラじゃない!

ゴジラの巣がマジソンスクエアガーデンというのも、平成ガメラ第1作の福岡ドームを彷彿とさせます

孵化した大量のゴジラの子供達はジュラシックパークのラプターみたいです
ミニラやベビーゴジラみたいに可愛くありません、凶暴です
CG のクォリティーはかなり高く、ジュラシックパークに見劣りしないものです
でもそれだからこそ、ジュラシックパークの二番煎じに感じてしまうのはつらいところ
でも迫力は凄いものがあります

続く爆発シーンはさすがエメリッヒ監督というド派手なクォリティーの高さを披露してくれます

キスシーンもあり、これで大団円かと思いきやまた一波乱があるのはハリウッドらしいところ

映画タクシーみたいな展開が笑わせます
その映画はフランスで1ヶ月前に公開したばかりですから偶然です
どの通りを通ればよいかのタクシーあるあるネタはちょっと面白いです

セントラルパーク、マジソンスクエアガーデン、卵、タクシー
なんか平成ガメラ第1作をヒントにしたプロットが多いように思えます

そしてブルックリン大橋での見せ場を作っておしまいです
最後は次作に向けての伏線も張ってあります

こんなに面白いのになぜ黒歴史なんでしょう?
なぜ憤慨してしまうのでしょうか

それはゴジラをリスペクトしてないからです
ただの巨大化したトカゲだからです
形態がそうだからでなく、存在もそうだからです
ゴジラはGodzillaと書く意味を分かっていないからです

ゴジラを愛していれば愛しているほど、思い入れが深ければ深いほど、本作のゴジラは受け入れられないのです
だから黒歴史になってしまったのです
ゴジラはトカゲが巨大化しただけの存在ではないのです
もっと人知の及ばないものなのです

脚本自体は良くできています
これを日本に舞台を移して翻案しても成立します
ビキニ環礁、大戸島、東京
CIA の暗躍、地下鉄、東京ドーム
原子規制委員会の若手学者、テレビ局の女子アナ、自衛隊、レインボーブリッジ
全部移し替え可能です
特撮も、それほど予算をかけなくても今ならそこそこのレベルでやれるでしょう
それでも結構な予算規模になりますが、作ろうと思えばやれる範囲だと思います

形態を日本のゴジラにすれば良いだけです
地下鉄に潜んだり、ビルの谷間を猛スピードで駆け抜けるなんてところはアレンジが必要です
また簡単にゴジラがやられたり、死んでしまうところは書き換えは必須ですが

ではなぜこうなってしまったのか?
エメリッヒ監督にはゴジラの思い入れが無かったからです
彼は元々本作には興味がなかったそうです
インデペンデンス・デイの次は隕石落下ものを撮りたいと準備中だったのです
断るつもりでゴジラは大トカゲにすると言ったそうです
ところが、東宝側がその意見を飲んでしまったというのです
その結果出来上がったのが本作という訳なのです

怪獣映画の文化、ゴジラへのリスペクトがない人間が撮れば、幾ら予算を掛けても、特撮が凄くとも、実績のある監督であってもその作品には、ゴジラへの愛や畏怖がないのです

私達ゴジラファンはそれが許せ無かったのです

モンスターバースのゴジラ映画と比べるとどうでしょうか?
本作の方が出来は上だと思います
確かに当時の技術力の限界で画面は暗く見づらいのですが、映画としてはずっと上だと思います
でもモンスターバースのゴジラが許せるのは、その作品にはゴジラへの理解があるからです
リスペクトと愛と畏怖
だからそれらの作品は決して良い出来ではないのに許せるのです

エメリッヒ監督は新作「ムーンフォール」が公開目前です
きっと面白い映画を観せてくれると思います
ゴジラとの出会いはお互いに不幸な結果となりました
しかし私達オタクには良質な特撮映画を提供してくれる良い監督です

本作はゴジラ映画としては黒歴史となってしまいましたが、ゴジラ映画とさえ思わなければ、なかなか面白いじゃないか!と再評価されるべき作品と思います

本作の教訓は、怪獣映画愛、特撮愛の無い人間に、ゴジラ映画を撮らせては駄目だということです

東宝は「シン・ゴジラ」の大成功でその意味をやっと学んだと思います

あき240