「人生の見つめなおしか官僚批判か」生きる(1952) Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
人生の見つめなおしか官僚批判か
総合:65点
ストーリー: 65
キャスト: 70
演出: 75
ビジュアル: 60
音楽: 65
無為に生きてきた人間が、死を意識したときに今までの人生を振り返り、残った人生に何をするかを考える。彼の場合はあまりに過去にしてきたことがないことに気付き、自分の寿命があまり残されていないことを聞いたとき同様に呆然とするのであるが、しかし今更何をやっていいのかすらもわからない。
そのような彼ですら、死んだ気になれば怖いものなしで自らを奮い立たせて何かを成し遂げるために精一杯の努力をする。官僚制度に歯向かい上司に歯向かい古いしきたりに歯向かって一心不乱に努力をする。その精一杯の半年ほどの時間は、彼の何もしてこなかった30年以上の価値があったことだろう。皮肉なことに、彼は死を悟ってから初めて本当の意味で生きることが出来た。
「生きる」という題名であるし、実際に主人公の生きる意味を探求するのが主題にはなっている。だが同時に官僚制度への批判が最初から最後までこの映画の主題にもなっている。今でもお役所仕事という言葉が悪い意味でよく使われているが、この時代は恐らく今以上にその駄目振りがひどくて、彼の人生を通してお役所の仕事のお粗末ぶりが徹底的に皮肉にさらされる。結局これがもう一つの主題なのかと思って、私は世間の高い評価ほどにはあまり主人公の生き方にどっぷりと浸かれなかった。次々に出てくる駄目上司と無能官僚たちの体たらく。どうしても彼の生き様を見て感傷的になるというよりは、お役所仕事に関する社会派映画を見ているような気になって焦点が定まらなかった。
それでも彼にとって、過去の人生を見つめなおし、人生をやり直すことになったその短い時間において、やるべきことをやり遂げたという満足感があったことだろう。だから彼の死後、業績が正しく評価されようがされていまいが、彼にとっては満足した人生になったんじゃないかと想像する。
古いから仕方がないのだが、画像は綺麗ではないし、音声もひどくて日本語なのに何を言っているのかわからない部分がある。流石に科白がはっきりと聞き取れないのは辛い。