劇場公開日 1947年8月30日

「西部劇の世界そのものを味わい、楽しむ映画」荒野の決闘 ダンマダミタさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0西部劇の世界そのものを味わい、楽しむ映画

2023年3月29日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

「おー前だーれ、おー前だーれ」と小さいころ歌っていたような記憶がある。

雪山賛歌と同じメロディなので、「きっと雪山賛歌はこの映画の主題歌の替え歌なんだろう。この映画のヒロインのような美女とは到底結婚できそうもないので、へん!俺には女なんかいらない。俺には山があるもんね」ともてない山男が自分を慰めるため作った歌だろう、ぐらいに思っていた。実際はそうではなく、雪山賛歌はこの映画ができるずっと前に作られたらしい。この歌は西部開拓時代に鉱山の男たちによって歌われていた民謡だそうだ。歌の内容は、鉱山で働く男の娘が川に落ちて死んじゃった、というようないいかげんな歌詞で、この映画のクレメンタインとは似ても似つかない。

この映画を見たいと思ったのは、「ルパン三世カリオストロの城」のラスト近く、ルパンがクラリスと別れるシーンが、この「荒野の決闘」のオマージュだと知っていたからだ。ワイアットとクレメンタインが向かい合って立っているシーンは、ルパンとクラリスが向かい合って立っているシーンと全く同じである。特にクラリスとクレメンタインは同じ人間だと言ってよい。こんな女性とこんなふうに真っ直ぐに向かい合って立つ、というのはいったいどれほどの緊張感なのだろうか。

しかし、その緊張感は、その両者が最高にいい男と最高にいい女であるから起こるものに違いない。上記の二つの映画とも、その男と女がどれほどいい男であり、いい女であるかを充分に描いてきたからこそ、このシーンはこんなにも高まるのだ。言い換えれば、二つの映画の全内容はこのシーンのために存在していると言ってよい。

この映画のワイアットはやくざ者に対しては驚くほど素早く的確な対処ができる。保安官として、超有能である。ところが、恋したクレメンタインに対しては驚くほど不器用で、はにかみ屋だ。その落差がいい。町の人たちがダンスをしているのを見て、二人もダンスをしたくてたまらない。でも、どちらからもそれを切り出せなくてもじもじしている。意を決してワイアットはダンスをに誘う。クレメンタインは喜んで応じる。なんてウブな。でも、これこそが恋の幸せというものだ。
また、ワイアットは実直この上ない。それに大して男前とも思えない。しかし、カッコいいのだ。魅力がある。歩き方が独特だ。この歩き方は見覚えがある。最初に作られたスターウォーズで、ハン・ソロが酒場で、争いごとを鎮めた後、悠然とその場を立ち去る時の歩き方と同じだ。あの歩き方は普通じゃなかったので、あれは何なんだろう、と気になっていたのだが、この「荒野の決闘」を見て、わかった。あれはこの映画のヘンリー・フォンダの歩き方を真似していたのだ。

この実直なワイアットとクレメンタインが別れのために向かい合って立ったあと、ワイアットはクレメンタインの頬にキスをする。このキスシーンは試写会の時はなく、ただ握手するだけであったらしい。しかし、試写を見た一般観客はキスシーンを期待していたので失望した。それで、キスシーンを新たに撮って、握手に替えたそうだ。握手だけの方が主人公らしいが、一般のアメリカ人にはプラトニックでありすぎたようだ。でも、やっぱりキスシーンがあった方が甘くて、満足感が高いだろう。そして、二人はここで別れても、この後再会し、幸せな結婚をすることがほぼ約束されているようなものだから、観客は幸せな気持ちになれる。

この映画の魅力は何だろうか。恋があり、決闘もある。殺伐としているが、解放感がある。現代人にとって、この解放感は大きい。西部開拓時代の町の人々もしっかりと描かれている。背景のモニュメントバレーは観光地で、西部のどこにでもあったものではないが、雄大だ。この映画には、それほど大きな感動というものはないかもしれないが、全てがよくできていて、人物はみんな存在感がある。味がある。最高の料理人の料理にどこか似ている。「西部劇」の世界にじっくりと浸りたい、味わいたい、楽しみたい、と思ったとき見る映画だと思う。期待を裏切ることはまずない。

ダンマダミタ