「「最後の西部劇監督」による最初の劇場向け西部劇」荒野のガンマン TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)
「最後の西部劇監督」による最初の劇場向け西部劇
サム・ペキンパー監督の劇場映画デビュー作。
開巻いきなり私刑で吊されようとする男の場面から始まり、続いて酒場での乱闘。
といっても酒瓶で殴り合ったり、カウンターを越えて転がり落ちるようなありきたりのシーンはない。
酒場で合流した主人公一行は、次の町で利発そうな少年と出会うことに。
普通なら年齢差を越えて主人公と友情を交わすことになりそうだが、序盤で流れ弾に当たった少年は呆気なく命を落とす。しかも、流れ弾を射ったのは主人公―と、何もかもが異例ずくめの展開。
半裸で野蛮な先住民の描かれ方はステレオタイプだが、決して従来型のインディアン・シューティングムービーではない。
主人公を付け狙うアパッチは撃たれて苦悶の表情を浮かべながら斃れ、射ったヒロインは相手が先住民なのに良心の呵責に苛まれる。
そもそも物語の骨格は元南軍兵に頭の皮を剥がれかけた主人公の復讐譚。先住民の残酷な風習として認知されてしまった行為が実は白人由来だった事実を暗示している。
のちに「バイオレンスの帝王」と称されるペキンパー監督特有のスプラッターやストップモーションこそ見られないが、既存の西部劇とは異なる異色の展開が巨匠の片鱗を窺わせる。
本作公開の年にアメリカが本格介入を始めたベトナム戦争が泥沼化する前に、心身ともに傷付いたイエローレッグやパラノイア化したタークらに仮託し戦争トラウマを扱った点も異例。
原題は‘DEADLY COMPANIONS ’。「絶望的な一行」とでも訳すべきか。
途中で馬を失い荷馬車も破棄しながら息子の死体を携えて墓地を目指すヒロイン、キットの物悲しくやるせない姿はまるで『サウルの息子』(2015)の主人公。
だが、彼女はやがて自らの罪の意識と献身的なイエローレッグの振る舞いから、息子を殺した彼を赦し、その復讐心をも解いてゆくことに。
死体が転がってる傍らで主人公とヒロインが見つめ合い、ニッコリ笑ってジ・エンド、というハリウッド西部劇の定番が自分にはまったく共感出来ないが、この作品なら許せる気がする。
NHK-BSにて視聴。