黒猫・白猫のレビュー・感想・評価
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結婚式は強行する
博打に明け暮れ父親のザーリェにも見捨てられたマトゥコは、起死回生を狙い石油運搬車両の強奪を企てる。
彼はザーリェと深い仲であるゴッドファーザーことグルガのもとへ行き、ザーリェが死んだと嘘をついて大金を受け取る。
そして彼はその金を元手にマフィアのダダンに協力を持ちかけるが、あっさり裏切られ金を持ち逃げされてしまう。
裏切りにあったことにも気づかないマトゥコは、ダダンに出資した金を返すように脅迫される。
ダダンは妹のアフロディテとマトゥコの一人息子ザーレを結婚させれば借金をチャラにすると提案する。
とことん甲斐性のないマトゥコは、ザーレの幸せだけは約束すると云っていたにも関わらず、その提案を飲んでしまう。
実はザーレにはイーダという心に決めた相手がいた。
一方アフロディテもまたこの結婚には乗り気ではなく、一体誰の幸せのためなのか分からない結婚式が始まろうとしていた。
相変わらずエミール・クストリッツァ監督らしい常軌を逸したテンションで繰り広げられる作品である。
最初はやや面食らうものの、物語が進むにつれてパズルのピースがひとつずつはまっていく爽快感を味わえる作品でもある。
ポンプに吊るされた死体から必死でカバンを取り返そうとするマトゥコの姿が、猟奇的な状況とは不釣り合いなほどに滑稽だ。
またザーレとイーダがひまわり畑で愛し合う場面はとても心に残る。
そして切り株に隠れてダダンの追手から逃げるアフロディテの姿も。
ザーリェは自らの死によって結婚式を取り止めようとするが、ダダンは喪に服すべきだと主張するマトゥコの意見を退け式を断行する。
一体どんなつもりなのか、自らの過ちのせいで息子の人生が暗いものになろうとしているのに、マトゥコはダダンの顔を立てるために陽気なキャラを演じ続ける。
中盤までは本当にどうしようもなく人間の醜い姿を描いているが、後半は一気にカタルシスに向けて物語が加速していく。
祖父のグルガからずっと妻を娶るように言われ続けていたヴェリキは、逃亡中のアフロディテと一瞬で両思いになる。
マトゥコの言葉を信じてザーリェの墓参りに訪れたグルガだが、都合よく本当にザーリェは死んでいた。
そしてグルガもまた発作を起こして死んでしまう。
と思ったら二人揃って息を吹き返し、何だかんだでお互いの友情を確かめ合う。
ザーレとイーダ、ヴェリキとアフロディテはそれぞれに想い合う者同士で結ばれる。
しっかりと罰を受けたダダンは肥溜めに落ちる。
ザーリェは密かにためておいたへそくりを、ザーレの結婚祝いとして渡す。
そのへそくりはずっとマトゥコが探していたものだ。
最後に式の途中で抜け出したザーレとイーダは、船に乗って新しい場所へと旅立っていく。
まさに終わり良ければ全て良し全て良しを画に描いたような作品だ。
黒猫と白猫のつがいが色々と象徴的に登場するのも印象的だった。
残念な人々
登場人物が風体、人柄ともにことさらに汚らわしく描かれ、残念過ぎてだれにも感情移入できず、下劣な笑いが渦巻き拷問のような映画でした。確かにこうまで笑えない映画も珍しいと邪推してみたくなりました。
主役はセルビアのロマ人たちですね、法も倫理も無く闇社会が幅を効かせ、人々は享楽的に無為の人生をおくる暮らしぶりが描かれます。そんな暮らしから羽ばたこうともがく若者の存在は一筋の光明なのでしょう。ただ青年は頼りなく、彼女はむやみに銃を撃つので上手くゆくのか分かりません。
感性の違いなのでしょう、ドジなキャラがドジを踏んでも当たり前で笑えません。道化師もどきを集めて馬鹿騒ぎを演じれば喜劇になるという古典的手法ですね、ただクストリッツァ監督は食えない人、そんなに単純な訳はないでしょう、笑いづらい理由のこじつけかも知れませんがピエロにペーソスや欺瞞性を感じるのと同様にロマ人の民族的悲壮感の裏返しとしての悲喜劇かもしれません。
ネズミの扇風機、車が好物の豚さん、ガチョウも猫も名演でした、劇中の人間たちも動物たちと妙に調和して見えるところは監督の人間観なのでしょう。
人生は楽しい!
うひゃー、おもしろすぎてどう書いたらいいか分からない!
ヤギが飛ぶ、ガチョウが走り回る、ブタが車を食べる、死者はよみがえる、そして楽団は木にぶら下がり、音楽は止まらない!
博打好きの親父の借金のカタとして、意に沿わない結婚を迫られるザーレ君。結婚相手はやくざの行き遅れた妹。彼女もまた、王子様の登場を夢見てこの結婚を反故にしたいのです。
誰にも止められないと思った式に待ったをかけるのは、したたかなじいちゃん2人。ヤニだらけの前歯がまぶしすぎるのですが、若造なんかがお呼びじゃない。ハッピーエンドに導くお手並みは拍手ぱちぱちです。
ドナウ川がゆったり流れるユーゴスラビア。河畔に暮らすロマの人たちの暮らしぶりが実におおらか。たとえ憂いがあっても音楽と酒があれば、とりあえず保留にして楽しんじゃえ、という姿勢が見ていて気持ちいいのです。人生は楽しい!
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