「Orson Welles」黒い罠 vary1484さんの映画レビュー(感想・評価)
Orson Welles
オーソン・ウェルズという映画業界でもNo.1の座を争う偉人の作品。
まず、このような伝説的作品を定額制動画配信サービスで見られることを感謝せずにはいられない。
1950年代のフィルムノワールという一時代を作ったジャンルの代表的な作品。一番最初に目に貼ってくるのはやはり、フィルムノワールの代名詞とも言える照明。何を映すのかではなく、何を闇に隠すのかという影が支配する映像は見応え十分です。そして、フレーミングの王様、オーソンウェルズの一寸違わぬカメラワーク。そして有名な編集。
シネマトグラフィー(撮影、照明)
ハードライトでくっきりとキャストされる影がやはりこの時代の副産物でしょう。超巨大なライトを使って、サイドから力強く当てられた光が作る影は、フィルムノワールの主役です。今作でもそうですが、フィルムノワールのテーマは裏切りや陰謀などの人間の影の部分をテーマとします。文字通り、人間の裏の部分が影となって一つのキャラクターとして映し出されます。さらには、陰もくっきりと漆黒で顔の半分を支配する、キャラクターのクローズアップは、その人間の表と裏の二面性を描いています。
シルエットや陰影のように照明が当たらないところでキャラクターを表現する。それがフィルムノワールです。ハリウッドスタジオの黄金期を支えた一つのブランド。
オーソンウェルズ
『市民ケーン』でもよく知られますが、レンズの長さやカメラのアングルなどのフレーミングのテクニックを使ってキャラクターの感情や立場を表現する技術の親がオーソンウェルズです。今作では、オープニングシークエンスやサンチェスの家のシーンで見られるワナー(長回し)がとても実物です。危険とオーディエンスとの距離を操作し、キャラクターをステージ上でダンスをするように動かし、サブコンシャス的にそのシーンを盛り上げ飾りつけしていくこのフレーミングとブロッキングは、現代の映画にも通じる先駆者の代物です。
編集
これまたスタジオ時代の映画界を象徴するような事件で有名ですね。撮影後、オーソンウェルズがチームから抜けた後、ユニバーサルスタジオがストーリーを書き換え、別シーンを撮影し、変種を操作しました。それにオーソンウェルズが68ページにもわたる抗議を含んだ意見文を提出したのです。しかし、それも叶わず、そのまま放映されてしまいました。
その後、その意見文を元に、ウォルターマーチ先生が再編集をしたのは、公開から40年後のこと。そこで、彼の作品はさらに脚光を浴びることになりました。映画界での伝説の地位を確立したのは、そのとき。
これらからもよくわかりますが、一つの作品に対する熱意が違う。自分が出演するのもそうですが、68ページにもわたって自分の意見を書くことができるのは、そこまで作品に対する愛があり、熱意があり、それが叶わなかったことがどれほど失意だったのかが伺えます。
これが映画だと言わんばかりの作品です。単純に初見でも面白く、ハラハラできるフィルムノワールですが、100回観ても味がする、芸術であり、映画のポテンシャルをさらに感じる最高傑作。
それゆえ、私はこの作品の1%も感じ取れていないし、楽しめていない。99%楽しむ余地が残っていることだけはひしひしと感じる。