劇場公開日 1986年7月26日

「観る人を選ぶ」蜘蛛女のキス とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0観る人を選ぶ

2018年12月18日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

悲しい

難しい

何だろう、このインパクト。
切なさなんて言葉では表現しきれぬ、心をかき乱されるような思いが後を引く。
忘れたくとも、忘れられない。

人が人として扱われないこと。
人が人として認められること。
単なる道具として、人をみなせた時代。
そんな中で、自分の心だけが知っている、為し得る信義。
報われる想いってどういうこと?
心に楔が撃ち込まれるようだ。

絵的には、美的ではない。
 髭面・傷だらけでやせ細り、革命の闘志として、目だけがギラギラしているヴァレンティン(ラウル・ジュリア氏)。
 トランスジェンダーなんだけれど、体がごついモリーナ(ウィリアム・ハート氏)。
 場所は刑務所の一室。
 しかも、人を人として扱わない時代の物語。
 モリーナが語る映画?・モリーナ作の物語?が映像化されるが、セピア色。美男美女が出てくるんだけれど、顎を挙げて、見下すように人を見る女性が出てくる(ソニア・ブラガさん)。イワン・クラムスコイ氏の『忘れえぬ女』をもっとツンツンした感じ。しかも、手のジェスチャーが大仰で見栄を張って舞台の真似をしたようで、私にはしっくりこない(監督が昔見た女優を再現しようとして、自ら振り付けした動作だとDVDの解説で聞いたような)

だのに、次第に目が離せなくなる。

と同時に描かれる拷問の残酷さ。
そのために、体だけでなく、人格が崩壊していく様も描かれる。
その対比のような献身。
そして疑念・裏切り…。

努力すれば報われるなんてことは奇跡のような日々。

途中で挟まれる、モリーナの語る物語。
 モリーナの隠れた意図や、ヴァレンティンが興味を持つように、”語り”を変えてくる?
 単なるモリーナの現実逃避じゃないように思える。
 どうしてこんな展開?そしてこんな展開を二人はどう受け止めるんだろう?

そんな、心がささくれ立ちそうな物語の中で、ハート氏演じるモリーナが、とても美しく、優しく、”女性”として虜になっていく。
蜘蛛の糸にからめとられ、生き血を吸われるような運命は感じ取れないけれど、目が離せない。

そしてラスト。忘れられない映画となる。
正直、好みがわかれそうで、誰にでも進められる映画ではない。
でも、個人的には何度も見返して、細部まで堪能したい映画。

《2021.9.23追記》
☆バート・ランカスター氏が、モリーナ役としてオファーされていたけれど、断られて、ハート氏になったとか。『家族の肖像』のランカスター氏なら、ランカスター氏のモリーナも観てみたかった。蜘蛛の糸が絡みつきそうだ。

☆モリーナが語る映画?の中の女のイメージって『サンセット大通り』のノーマ?

とみいじょん