「「橋の上のママとパパのところ」」禁じられた遊び(1952) komasaさんの映画レビュー(感想・評価)
「橋の上のママとパパのところ」
ミシェルの抵抗虚しくポーレットが警察に保護されるシーン。無力感を自分を裏切った親への怒りで塗り固め、彼女を残し水車小屋へと走り去るミシェル。怒りに任せて彼女の為に作った箱庭のような墓地を破壊し十字架を川へと放り込む。これは親への復讐だろうか、それとも彼女の痕跡を消し去ろうとしているのだろうか。
そこをポーレットを乗せた車が音と砂煙を残して姿無く走り去る。その後ポーレットの壊れた首飾りを引き千切ろうとして思い留まり、100年預かってくれと言ってフクロウに託す。優しくフクロウを撫でながら。
きっとアメリカ映画なら、ミシェルはポーレットと一緒に親と警察から逃げ出すだろう。ディズニーなら、フクロウを撫でたところで何かしらの魔法が起きるだろう。ジブリならドーラが出てきて喝を入れただろう。だが、この作品では何も起きない。ミシェルはポーレットとの事を過去のことにして舞台から退場する。それがこの後のラストシーンを一層悲劇的なものにしている。
ラスト、喧騒の中でミシェルという名を耳にするポーレット。ミシェルの名を連呼しながら辺りを見回す目が、抱き合う男女を捕らえる。か細い声で二回ママと呟いた後、今度は助けを求めるかのようにミシェルの名を何度も叫びながら画面の奥へと走り去っていく。
ミシェルがポーレットを探しに来ることはない。それを知っているだけにとても辛い。彼女の不透明な未来を危惧すると共に、同じ境遇の多くの子供が喧騒に紛れて届かぬ声を上げているのではないかという想像を掻き立てられて、とても恐ろしくなる。
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吐血をした兄を見て洗濯の心配をする娘。息子の死に涙しながら、スプーンにとったひまし油を瓶に戻す母。翌日娘に隣の息子に惚れるなよと軽口を叩いた後に妻の尻を叩く夫。値札を付けたままの十字架。墓穴から出るのを手伝た喧嘩相手を穴の中に残して走り去る父。我が物顔の蝿達。
場違いに思える行動や台詞が、感情や生活の生々しさを強調しているように思う。
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近くに迫る戦争と、隣人との諍いという組み合わせから「イニシェリン島の精霊」を思い出した。