「核戦争の恐怖」風が吹くとき 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
核戦争の恐怖
映画館で観たのはこのリバイバル上映が初めて。レイモンド・ブリッグズの優しいタッチの絵柄で牧歌的な生活を送る夫婦の暮らしが徐々に追い詰められていき、飢餓の苦しみの極限を描くに至る。優しい絵柄だからこそ、苦しみと悲惨さが強調される。核戦争の恐怖を描いた名作として名高い本作だが、広く戦争の苦しみと恐ろしさを描いた作品として後世に残すべき傑作だ。
この作品には、核をめぐる80年代当時の空気感が良く出ていると考えていいだろう。漠然として核戦争によって終末がもたらされるという恐怖、その恐怖は生活をこのように侵食していくのだということを、たった2人の登場人物で描いていく。この夫婦はかたくなに政府の発表を信頼している。政府の配布した冊子の情報通りに簡素な核シェルターを作るのだが、ドアを外して立てかけただけの、本当に簡単なものなのだ。しかし、それが自分らを守ると強く信じている、なぜなら政府の情報だから。
技法的にも興味深い作品だ。アニメーション映像に実写映像も混ぜており成す不思議な空間は、虚構と現実の橋渡しをしているかのような、そんな印象を与える。この終末感は虚構の産物かもしれないが、現実にも起こり得るのかもしれないと思わせるために、手法が極めて有効に機能している。
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