「愚民政策の行き着き先を描いたディストピアSF?」風が吹くとき 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
愚民政策の行き着き先を描いたディストピアSF?
日本に育ってある程度原爆の被害について知っていると、公開された1986年時点(太平洋戦争の原爆投下から41年後)でも、イギリスの庶民って原爆の知識がないってこと?と驚くというか戸惑うというか。主人公である老夫婦の思考も、どちらかというと親がいないまま家に取り残された子供かと思うくらいにおぼつかなくて、「ホントにこんな感じ?」と原作者や映画の作り手の意図を測りかねるところがある。
ただ調べてみると、劇中に登場する被爆対策のパンフレットや現実に存在したもので、主人公夫婦のあまりにもお粗末なシェルター作りも、パンフレットの内容にほぼ即していることがわかる(パンフレットよりもだいぶ雑だけど)。
つまりはこの映画は、戦勝国の政府なり自治体なりがちゃんとした情報を提供することなく、それでいて「非常時は政府の指示に従うこと」を徹底した場合に起こり得る「愚民政策」の弊害を皮肉った作品ではないか。86年当時のイギリスの庶民感覚も一律ではなかっただろうが、田舎を舞台にした一種のディストピアSFと捉えていいんじゃないかという気がしてくる。
「いや、誇張でもなんでもなくあの頃の一般市民の戦争や認識があんなものでしたよ」とイギリスの人が言うならもはや戦慄するしかないが、じゃあ反戦や反核が当然のものではなくなりつつある今の日本も、たやすくこうなってしまう可能性があることは認めなくてはなるまい。
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