「現代の映画では喜劇にしかならないカッコよさ」カサブランカ La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)
現代の映画では喜劇にしかならないカッコよさ
古い洋画ファンの間でオードリー・ヘップバーンと人気を二分するイングリット・バーグマンの代表作とも言える『カサブランカ』、凡そ50年ぶりでスクリーン鑑賞です。今、改めて観ると、少し雑だなと思える部分もありますが、そんなの問題ではありません。やっぱり名作です。
まず、何と言ってもイングリット・バーグマンの気品です。僅かな表情の変化にも現れる品の良い美しさにドキドキします。
そして、作中のあちこちに散りばめられた名場面に改めて唸らされるのです。
本作以降、何度もパロディとして取り上げられる「君の瞳に乾杯」のキザな台詞。こんなの現在の映画では喜劇にしかなりません。この時代のハンフリー・ボガードならではです。それにしても、" Here's looking at you, kid " にこんな日本語を当てた字幕担当の方のセンスは素晴らしいなぁ。
更に、これまた何度も話題になる、
「夕べはどこにいたの?」「そんな昔の事は覚えてないね」
「今夜会える?」「そんな先の事は分からない」
の、一度は言ってみたい台詞。
でも、そうしたキザな造りだけでなく、ドイツ将校が大きな顔をしている酒場でラ・マルセイエーズ(フランス国歌)を客が合唱するシーンは、観る者の胸を熱くします。
そして、本作のテーマソングとも言える " As time goes by " は、数十年後にジュリーの『時の過ゆくままに』、そして『カサブランカ・ダンディー』へと繋がるのですから、日本人に与えた影が如何に大きかったかも窺えます。
何より驚くのは、本作が1942年に制作されている事です。ヨーロッパでの戦線のみならず太平洋でも日本と戦火を交え、ミッドウェイ海戦での勝利で一気に反転攻勢に出た頃です。日本では、敵性語として英語をあらゆる場から排斥していた頃、アメリカではこんなラブストーリー映画を撮っていたのです。もし、当時の日本中の映画館で本作が上映出来ていたら、
「こんな国と戦争して勝てる筈はない」
と、もっと早く無条件降伏出来ていたかも知れません。