「人生の刹那を魅せてくれる名作」俺たちに明日はない Garuさんの映画レビュー(感想・評価)
人生の刹那を魅せてくれる名作
複雑化した社会では、多かれ少なかれ誰もが生きることに戸惑いを感じている。 ボニーやクライドのように突き抜けた行動がとれる単細胞人間を見ると、好奇心だけでなく羨望の思いに駆られてしまうのが人間の性だろう。 彼らは紛れもない殺人犯だが、その悪事には、背徳的なカタルシスさえ感じてしまう。
最初のうちは、常識を大きく逸脱した彼らの行動と日常を、我々は画面の外から傍観するだけだ。 そのうち、その生きざまに惹きつけられ、彼らに心が寄り始める。
有り余る時間とエネルギー、そして、未来への希望を持つ、若さゆえの暴走。
その先に待っているのが、ありのままの現実であることは観ている誰もがわかっているが、やはり誰もが漠然とした希望にもすがってしまうのである。
時に享楽的な笑いに耽る彼らは、時代に関わらずどこにでもいる若者と同じだ。 車で逃走する時に流れるバンジョーの能天気な音色は、怖さを知らない若者の楽天性を象徴する。 一方、仲間内で不安や怒りをぶつけ合うシーンは、物語の構成とは関係のないリズムで出てくる。
いわゆるドラマ的な作りではなく、若者の日常につきものの極端な陰と陽のコントラストを、そのまま客観的に映し描いているといった感じだ。
そして訪れる、壮絶なラストシーン。 それは、一瞬の静寂の後、突然起こる。 ボニーとクライドの死を見せられた後、唐突に現れるTHE END の文字。 エンドロールのBGMは、明るい音色を奏でていたバンジョーを使った寂し気なメロディ。
彼らに心を引き寄せられていた観客は、ここで「当然の現実」を見せられ、突き放される。 そして、自分の人生の幕が降ろされたような、虚ろな余韻の中に落とされるのである。
観客が彼らに共感するように作られた、単純な娯楽作品ではない。 この作品が今でも語り継がれる名作である所以だと思う。