劇場公開日 1975年3月1日

「本作で取り組むべきテーマを、復讐譚で矮小化されては残念としか言い様がない」オデッサ・ファイル あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5本作で取り組むべきテーマを、復讐譚で矮小化されては残念としか言い様がない

2020年12月2日
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鑑賞方法:DVD/BD

傑作「ジャッカルの日」の原作者フレデリック・フォーサイスの第二作

彼の原作による映画は四作あります

ジャッカルの日 1973年
オデッサ・ファイル  1975年(本作)
戦争の犬たち 1981年
第四の核 1987年(日本未公開)

フォーサイスはイギリスの作家
元ロイターやBBCの記者だけあって圧倒的な取材力でその原作は莫大な情報量を誇ります
もちろんフィクションを絡めて小説にしているのですが、そのフィクションの含有量がかなり少ない
というかそのフィクションもそうなる可能性がかなり高い確率であったというものです

第1作のジャッカルの日はその物語が、映画的な題材であったので、映画も傑作中の傑作になりました

しかし本作はどうかというとそこまでは、とてもいかない
以降の映画もしかり
むしろ映画との相性が悪く感じます
その情報量の極めて多い原作の端折り方、テーマの見極め、物語性の付与
かなり脚本の難易度が高いのだと思います

本作もそうで、原作の良さが消化不良を起こしてしまって残念です

それでとも中盤の変装してのオデッサ潜入からはがぜん面白くなります
しかし結末がただの復讐譚にまとめられてはつまらなく、しけたものになってしまいました

冒頭にでるタイトル文字が秀逸
Odessa File のssの部分がゲシュタポのあの有名なSSのロゴを模してあるのです
もしかしたら、実在のオデッサの命名もSSの文字があるから採られた名前なのかも知れません

舞台は、ケネディ暗殺のあった1963年11月22日の夜、ハンブルクから始まります
地下鉄Merken Street駅でのホームからの転落シーンは有名です

その後、ミュンヘン、ウイーン、バロイト、ハイデルベルクと変わります
終盤はお堀のある古城が舞台となります
といっても他に観光名所が出るわけでも綺麗な景色が広がる訳でも有りません
冒頭の夜のハンブルクの大通りのクリスマスの飾り付けの光景の方が記憶に残るくらいです

戦友会は在って当然です
親睦会です
戦地で生死を共に銃弾をかいくぐって生き残った間柄なのですから、戦後何年経っても懐かしく親睦を毎年温めたくなると思います
それは洋の東西を問わず日本でも同じです
戦勝国の米英露でも同じでしょう
戦友が困っているなら、できることならお互いに便宜を図るのも当然のことです

だが、それがゲシュタポの戦友会だとしたら?
しかもホロコーストを実行した部隊のものなら?
戦犯は戦後逮捕され、然るべく処罰され死刑に処されたはず
しかしドイツでは本作のように組織的に終戦間際から水面下に名前と身分を変えて潜んでいたわけです
しかもそのネットワークを持って戦前のファシズムを復活させようとしているならば?
現在進行形でイスラエルに対してまたもホロコーストをやろうと目論んでいたならば?

それが本作で取り組むべきテーマだったのです
復讐譚で矮小化されては残念としか言い様がない
そんなものは一要素に過ぎないはずです

日本ではどうか?
そのように水面下に逃れられた人物は皆無とは言えないかも知れません
殆どの戦犯は戦勝国によって逮捕され処罰をうけました
逃れた人物は稀でしょう
何故か逮捕されなかった人物もあったかも知れませんが極少数だと思います
そこがドイツと違うように思います

しかし私怨でお前は戦犯だと言いがかりをつけ、戦後何十年経っても特定個人を執拗に個人的に付け狙い暴力を振るう人物もいたようです
「ゆきゆきて、神軍」はそのような人物の映画でした
本作と見比べて、その酷さ、醜悪さ、程度の低さを確認しても良いかも知れません

そして個人ではなく日本民族全体に、当時生まれてもいない新しい世代にまで責任と謝罪を永遠に問うような隣国があります

ホロコーストの責任を個人にのみ問うユダヤ人の姿勢と比べると、アジア的な陋習を強く感じます

主人公ピーターの父親が佩用していた柏葉・剣付騎士鉄十字章は、ドイツ軍全体で159名のみ
大半は元帥や将官です
大尉でこれを授章した人物とは、天下に名前を轟かせる程の戦功を幾度も挙げている者ということになります

これがどれほど凄いかと言うと、「ヨーロッパで最も危険な男」として有名なオットー・スコルツェニーが、ムッソリーニ救出の功績で与えられたのが、親衛隊中佐に昇進と騎士十字章でした
それは3ランク下の勲章です

つまりピーターの父は、このスコルツェニーの戦功にも勝るほどの英雄であったという設定なのです

このスコルツェニーは戦後、本作で描かれたオデッサにもかかわり、さらににはイスラエルのモサドとも接触して、エジプトのイスラエルへのロケット攻撃計画に関与するドイツ人科学者のリストを提供して、この計画を未然に潰したともいわれています
つまり本作でのピーターの行動と父親はこのスコルツェニーの人生を元ネタにしていると思われます

ちなみに、「鷲は舞いおりた」のシュタイナー大佐がラストシーンで佩用していた勲章は、柏葉付騎士鉄十字章です
剣付きではなくワンランク下になります
シュタイナーは降下猟兵部隊の指揮官ですが、スコルツェニーがムッソリーニ救出作戦に使ったのも降下猟兵部隊でした

あき240