「社会分析とメロドラマ」大いなる幻影(1937) よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
社会分析とメロドラマ
何が「幻影」なのか、観る人によってとらえ方はいろいろだろう。
ナショナリズムの高揚と、近代戦がもたらした貴族階級の没落。職業軍人の出身階級の多様化。独仏両国で同様の社会変動があり、それぞれの貴族階級出身者がその歴史を嘆く。
両大戦間にこの作品を撮ったジャン・ルノワールの社会・歴史への認識が鋭い。
一方で、戦争を経験する人々の心のうちの描写も素晴らしい。
特に、終盤で脱走した二人を匿う農家の未亡人の孤独と不安を一言で表すセリフが胸にしみた。
「家の中に男の足音がする幸せ」
女の寄る辺なさと、敵国の脱走兵を家に入れた寂しさが溢れている。もうこのセリフだけで一つのメロドラマであり、例えれば阿久悠の詞に出てきてもおかしくない女性像である。この後、ジャン・ギャバンを待つことになる、このドイツの女もまた、着てはもらえぬセーターを、寒さをこらえて編むのであろうか。
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