「【時代背景と聖書の物語】」エデンの東 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【時代背景と聖書の物語】
旧約聖書の「カインとアベル」の話をモチーフにした文学は他にもあるが、このスタインベック原作の「エデンの東」は最も有名なのではないか。
ただ、なぜ旧約聖書は、この物語を収めたのか、僕にはよく理解できない。
神であるヤハウェが、カインとアベルの供物に良し悪しの差をつけるのか、神のする事に不満を感じてはいけないという戒めなのか、もし、そうだとしたら、モノのたとえが無茶苦茶だなとか、結果的に生じた殺人や嘘は受け入れ難いとしても、やっぱり、僕には理解出来ない。
この映画作品は、全体を通して流れるテーマ音楽がものすごく有名で、場面場面で、優しくも、悲しくも聞こえる。
キャルが畑で横たわる場面は、映画のポスターよりもファンに親しまれているのではないか。
世に多くの女性のジェームズ・ディーン・ファンを作り出し、いわゆる、キュンキュンさせたのだ。
僕の母親然り。
この作品の年代設定は、第一次世界大戦のアメリカの参戦が叫ばれている頃で、映画が公開されたのは、第二次世界大戦は終わっているものの、朝鮮戦争など米ソ対立が顕在化したことによって、思想的には保守化が進み、相対的に人権が軽視された頃だ。
こうした事が背景となって、このモチーフとなった「カインとアベル」の物語への疑問や、人権が相対的に軽視され、旧態然とした変化を拒否する社会への反感が育まれたのではないのかと思うのだ。
女性の発言や活動を嫌い、家族の封建的なところを肯定して、若者の自由を許容せず、そして、聖書を言い訳にする。
こうして鬱積した不満は、人種差別も相まって、60年代には、公民権運動や女性解放運動につながっていくのだ。
映画の物語は、キャルと父の和解で終わる。
世界が不穏な動きで揺れるなか、この映画は、神に代わって、家族には、そして、人には、和解が如何に大切かを示して見せたのだ。
これは、この作品の普遍的なテーマもあり、ジェームズ・ディーンの瑞々しさとケミストリーを起こし、今でもファンを惹きつけるのだ。
※ 今回のリバイバルで、通しでジェームズ・ディーン作品を3本観たが、分断に揺れ動く今の時代だからこそ面白いのではと考えさらされる映画たちだった。