「繊細で傷付きやすい青年の原罪と謝罪」エデンの東 Gustav (グスタフ)さんの映画レビュー(感想・評価)
繊細で傷付きやすい青年の原罪と謝罪
三島由紀夫氏の名随筆(夭折の資格に生きた男)を読んでからは、主演映画三作品のみで不慮の交通事故で亡くなったジェームズ・ディーンに対して、敢えて憐憫の情は持たないようにした。短い俳優生命でもアメリカ映画を代表する名作を遺してくれたことに、一映画ファンとして感謝しかない。この映画の素晴らしさは、シネマスコープの横長のスクリーンを生かしたエリア・カザン監督の演出とカメラワークの画面作りに、アメリカ映画では観たことのない繊細な演技力を備えたジェームズ・ディーンの個性が、キャルという登場人物を見事に創造したことに尽きます。親の愛情に飢えた青年の純粋な心ゆえ、父の理解を得られぬ孤独と焦燥感が伝わる表現力が、他のどんな俳優にも求められない。例えば「陽のあたる場所」のモンゴメリー・クリフトやフランス映画「肉体の悪魔」のジェラール・フィリップに似た容貌と演技を連想させるも、何より青春期の少年の様な若さを漂わす雰囲気が、ディーン独自の唯一無二のものを印象付ける。
この映画で一番驚かされたシーンは、主人公キャルが父の誕生日プレゼントで渡した現金を拒絶されて泣き崩れる場面だ。当時のハリウッド映画の美男美女の演技の定石として、例えば美人女優は、笑う演技と物を食べる演技は極力避ける傾向にあった。それは、綺麗な顔が崩れて見えるから。グレタ・ガルボが「ニノチカ」で笑う場面があるだけで話題になったこともある。そして、美男俳優が泣く演技で説得力を持たせることも難しい。現実にも男の涙で共感を得られることは、中々ない。女々しい男で片付けられる。共演の父役レイモンド・マッセイも驚いた、このディーンの定石を打ち砕いた表現をカザン監督は採用したと云われます。プロローグの列車の屋根で寒さに蹲る姿、大豆畑で嬉しさのあまり飛び回る姿、母ケートの部屋の前の廊下で凭れるキャルの佇まいなど、ディーンの演技がすべて名シーンとして記録されている。
「エデンの東」「理由なき反抗」「ジャイアンツ」と、全く違うキャラクターを見事に演じたジェームズ・ディーンは24歳と約8ヵ月、日数でいうと丁度9000日の生涯でした。彼の俳優人生は、宿命的に完結されたものだったと、、、思いたい。
琥珀糖さん、共感ありがとうございます。
昔の映画では、フェデリコ・フェリーニの名画「道」のアンソニー・クインの後悔のむせび泣きと、このジェームズ・ディーンの父への愛を拒絶されたすすり泣きが名シーンですね。一般的にも男は泣くものでは無いとする価値観があり、また映画の主人公が涙を見せることは男優の演技力を必要として稀であったと思います。近年は男らしさや女らしさの固定観念が否定されて、男優が泣く場面が以前よりは増えているのではないでしょうか。近年の男泣きで個人的に感動したのは、テレビドラマ「僕のいた時間」の故三浦春馬氏の演技でした。これはジェームズ・ディーンの演技力を彷彿とさせるものでした。そして、今年のサッカーワールドカップでの対クロアチア戦敗北の後に見せた三笘薫選手の涙には率直に言って驚きました。彼が背負った責任感と使命感からくる口惜しさと自責の念が慮れる、奇麗な泣き方をインタビュー時に捉えたシーンです。スポーツマンが勝利のうれし涙に顔をくちゃくちゃにするのは素直に観ていて感動しますが、これも感情移入してしまい、「レジェンド・オブ・フォール」のブラッド・ピットの泣き顔を思わず連想してしまいました。女優の戸田恵子さんがもらい泣きした記事を見て、俳優から見ても良いお手本としての無意識な感動があったのではないかと想像します。日常の中にある人間の表情に、演技を超えた本物を見つけるもの、映画を観て来て鍛えられた観方ですね。