嘘の心のレビュー・感想・評価
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嘘をつく心、それをめぐる物語
絵画教室を開いている画家と医者であるその妻が主人公のサスペンス仕立てだが、謎解きは主眼ではない。あるとき画家の教えている女児が帰りにレイプされ殺される。小さな村は猜疑心と噂話で満ち、避暑に来ていたジャーナリストは画家が犯人と当て推量し、情報を得るため妻に近づく。元々精神的に不安定な画家はより均衡を崩し家に閉じこもる。刑事が家を訪れ、あれこれ尋ねるたびに妻へ依存する度合いを深めていく。それを受け止めながらもどこかで負担に思っている彼女は、ジャーナリストと不倫関係に陥る。それを知って苦しむ夫。
結局彼女はジャーナリストの軽薄さに我慢ならず、中途半端な関係のまま断ち切り、夫の元に戻る。ジャーナリストとは何事もなかったように『ご近所付き合い』を続ける二人。ある濃霧の日、絵画の修復依頼にきたジャーナリストを送り届けた画家は、彼に挑発される。その夜遅く帰宅した夫を不審に思う妻。翌朝発見されるジャーナリストの死体。妻は二重の疑いを抱く。
やがて女児殺人事件の犯人がつかまり(噂を流していた花屋の女主人の夫だった)、ジャーナリストの死も心臓発作で片付けられる。だが夫は妻に告白する。彼を殴ったら動かなくなった。そして誰かが彼を訪ねたように偽装した、と。妻は夫をただ受け入れる。自分の犯した不義については語らぬまま。
シャブロルがここでテーマにしているのは疑心そのものであると思う。そういう意味ではタイトルどおり「嘘の心」、嘘をつく、その行為そのものをとりあげている。何故人は嘘をつくのか、そもそも嘘とはどういう行為であり心の作用なのか、そこを解剖学的に掘り下げていこうとしているように思える。小さな池に放り投げた小石は思いもよらぬほど大きな波紋を広げていつまでも静まらない。嘘は一度つけば、隠そうとして更につき続けることになる。妻は一生真実を告白することはないだろう。嘘をつく心、それをめぐる物語。
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