劇場公開日 2019年9月27日

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「西部劇の終焉」ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト neonrgさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 西部劇の終焉

2025年11月2日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

セルジオ・レオーネ監督の『ウエスタン』は、西部劇というジャンルの終焉を描いた“神話の葬送曲”のような映画でした。
冒頭の駅のシーンから圧倒的で、3人のガンマンがチャールズ・ブロンソンを待ち構える静寂の時間。風車の軋みや水滴の音が緊張を生み、黒澤明の『用心棒』のように「静」によってドラマを作り出しているのが印象的です。駅舎や服の汚れ、道具の錆びまで計算されたリアリズムがあり、砂塵にまみれた世界が一枚の絵のように完成されています。

映像は濃密で、テクニスコープ撮影による粒子の荒さが独特の深みを与えています。ディープフォーカスではなく、ディープスペースによる構図が多用され、手前と奥に人物を配置することで空間に圧力を生み出していました。色彩は乾いた大地の記憶のように“濃く”、4Kで観るとその質感がより鮮明に感じられます。

物語の核心は復讐ですが、その理由は最後まで明かされません。チャールズ・ブロンソンが吹くハーモニカが過去を示唆し、ラストでヘンリー・フォンダにそれを咥えさせる瞬間、すべての時間が収束します。ブロンソンの目が超クローズアップされるカットは特に象徴的で、彼の復讐を超えた“運命そのものの意志”を映しているようでした。

登場人物たちは誰一人として純粋な善でも悪でもなく、それぞれが時代の狭間を生きています。フォンダは秩序の残滓、ブロンソンは過去の亡霊、ロバーズは人間的な中間領域、カルディナーレは大地と再生の象徴。ラストで彼女が鉄道労働者に水を配る場面は、暴力の時代が終わり、文明の時代が始まることを静かに告げています。

1968年という時代を考えると、この映画は古典的ハリウッドとニューシネマの間に立つ“橋”のような作品です。アメリカ資本で作られながらも、イタリア人監督が外部の視点からアメリカ神話の崩壊を描いた。
それは同時に、西部劇そのものへのレクイエムであり、映画という夢が自分自身の終わりを見つめた瞬間でもあります。

鑑賞方法: 4K UHD Blu-ray

評価: 93点

neonrg