ウィル・ペニーのレビュー・感想・評価
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西部劇人気の衰退と開拓時代の黄昏
終わりゆく西部開拓時代を舞台にしたチャールストン・ヘストン主演の作品。
本作が製作された1960年代後半は、ベトナム戦争が泥沼化し旧い価値観が見直される中、世界的ブームのマカロニ・ウエスタンが西部劇の本家アメリカにも浸透。アメリカン・ニューシネマが誕生して本場米国の西部劇も変化が求められた時代。
『キャット・バルー』(1965)や『明日に向って撃て!』(1969)など、西部劇人気の蔭りを投影して開拓時代の終焉をテーマに幾つもの映画が作られたが、本作もその一つ。
暴力的なシーンや過激な演出が多いことからも、マカロニ・ウエスタンの影響が色濃く感じられる。
ベテラン俳優演じる主人公が親子ほども歳の離れた女性と恋に落ち、あるいはゴール・インする男目線のパターンは従来型の西部劇の定番だったが、ハリウッドの西部劇が飽きられた要因の一つでもあった。
本作も懲りずにその定石が繰り返されるのかと思ったら、もう一波乱。
一件落着し、あらためてヒロインからアプローチされた主人公は、牧童としての生活しか知らず読み書きも出来ない自分が、淀みなく本の朗読が出来る少年の父親代わりになれないことを悟り、かつての牧童仲間と去っていく。
ラストシーンは明らかに『シェーン』(1953)のパクリ。
イギリス人の脇役俳優ドナルド・プレザンスはろくな役に恵まれていないものの、小ぎれいな身なりに扮することが多いが、本作では山出しの悪党役。プリーチャー(字幕では説教師だったが、通常は牧師と訳される)を自称しながら、モラルのかけらも無い盗賊一家の長を怪演。
『刑事コロンボ』にゲスト出演した回の『別れのワイン』はシリーズ屈指の人気といわれている。
若いカウボーイのブルーを演じたのは、大ヒットドラマ『600万ドルの男』などTVでの活躍も多いリー・メジャーズ。『フォール・ガイ』(2024)のラストにも、ちょこっと出てましたよね。
主演のチャールストン・ヘストンは、のちにNRA(全米ライフル協会)の会長に就任したことでも知られる筋金入りの保守派。
『大いなる西部』(1958)や『ダンディー少佐』(1964)など多くの西部劇映画で活躍した彼はマカロニ・ウエスタンには批判的で、「どうしてアメリカの歴史である西部劇映画をよその国で作る必要があるのか」という趣旨の発言をしたことも。
そんな彼に是非、一言申し上げたい。
「あんたが言うなよ。自分も『ベン・ハー』(1959)出てたくせに」
見所なし
出だしとはいえ、セリフとクレジットが半端に続くのでスタート部分はわかりにくい。
肝心の内容の方は見所が無かったなあ・・・。チャールトン・ヘストンが照れくさそうに歌を歌う場面しか印象に残らず、はや80分が過ぎてしまった。
悪者に襲われ、這いつくように女の家まで行って命拾い。 恋に落ちてる最中に再び悪者参上! ひそひそ話してる最中に悪者は遠くから見てるだけ・・・有り得ない。「おい何しゃべってんだ、仕事しろ!」とか普通言いませんか?この後、隙をついて戦う流れは当然として、何の山場もなく終了してしまった・・・。
もうすぐ50歳で今さら無理だ。違った生き方が想像できない主人公。一緒に暮らす選択はせず去っていくのは賛否が分かれることでしょう。
素晴らしかった
主人公のウィル・ペニーが男同士では頼りになるのだけど、奥さんとのお歌の練習での恥ずかしがり方は心の痛さが伝わる。字も書けず、子どもの読み書きをまぶしそうに見ていた。自分なんてと低い自己評価なのだが、そこも含めて魅力的だ。
クライマックスに唐突に現れる仲間が心強い。あんまりかっこよくないアクションが怖くてスリリングでリアルに痛そう。
敵の一家のお父さんの顔が、ひどく憎たらしい。しかも完全に正義だと信じていて、正義を振りかざすので恐ろしい。敵一家の娘は、娘なのか恋人なのか、ちょっと知恵遅れなのか、よく分からなくてぱっと見美女で、怖い。
いろいろハラハラしてすっごく面白い。
Cowboyの人生
前半はなかなか本題が見えてこないのですが、cowboysの日課や暮らしぶりを知ることができます。
主人公は48か49歳くらいのベテランカウボーイWill Penny。
40代後半で既に爺さん呼ばわりされて本当やりきれないのですが、Wild Westで育っただけあり、先住民に負けず劣らず実践的な知恵と技術を身に付けています。
”Shane”と類似点がある作品ですが、Shaneと違ってWillはそこそこ身の上話をするので、彼が孤児でこれまでクリスマスを祝ったことも、教育を受けたこともない文盲という過去が見えてきます。坊やを名前でなく ”Button”と呼ぶように、恐らく彼自身も小さい頃に周囲の大人から”Penny”とあだ名を付けられていたのでしょう。
一緒に歌おうと言われ戸惑い、懐いた坊やに抱きつかれ感動のあまり涙を堪え切れないWillの表情に心を動かされました。次から次へと仕事を得て毎年厳しい冬を越すことだけ、仲間がいてもいなくてもただ生き残ることだけを考え、孤独が当たり前だった男が50歳を前にして、初めて暖かいクリスマスを味わい、家庭の愛情を知った、そんなWillの湧き上がる心の震えが伝わってくるようでした。受難の正直者を演じるならやはりCharlton Heston!なのですが、彼のこんな演技を観たことがなくて、ここで星が増えました。
無骨で無粋なWillは、Shaneの謎めいた雰囲気を取り除いたような男なので、カッコいいと思うかどうかは意見が分かれそうです。想いを寄せる女性から懇願されても去っていくのは、彼女のためと言うより、怖気付いているだけにも見えなくないのです。
“There’s no living with a killing.” と言い残し、ガンマンとしてしか生きる道がないことを悟っているShaneの去り方とは、少し次元が違う気がします。異なる生活習慣に馴染むにも、人生やり直すにも年を取りすぎた…っていうのは、cowboysに限ったことでもないですよね。目的地までせめて護衛兼案内役くらい買って出ても良かったのに…と思いました。しかしながら、このWillの諦めはとても現実的だと高評価だったようです。
Cowboyとして生き、cowboyとして人生を終える、逞しくも不器用な男。
気づいたら、この世界しか知らなかったー
それが幸せなのか不幸なのかは人それぞれ。
別の道を選ばなかったWillはこの先後悔するのだろうか。これで良かったんだと本気で思えるのだろうか…。寂しいアラフィフおじさんの行く末を思うと切なくてなりません。
とりあえず、お風呂はもうちょっとこまめに入って欲しいかな(^^)。
医師が床屋と郵便局もやっていて楽しそうでした。
“We don't all have the same choices. We just don't all have the same choices. We did what we thought was right.”
“Reckon it's just a case of too soon old and too late smart.”
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