「言葉の力。青年と詩人のお話。」イル・ポスティーノ TSさんの映画レビュー(感想・評価)
言葉の力。青年と詩人のお話。
まるで無垢な子供のようなマリオ。
波打ち際でネルーダに海の詩を聞かされ、言葉に酔う。
詩の虜になった彼は、美しい娘の虜になり、詩の力で愛を勝ち取る。
そして、言葉の力で大衆の心を掴み、世界に語りかけるネルーダの姿を見つめる。
「餌を食べた鳥は飛び去る」
ネルーダが祖国チリへ帰り、世話になった島を忘れた様子であることを詰る人々に、マリオは、むしろ自分の方が世話になったと語る。
「俺はただの郵便配達人。詩人として無価値。共産党員としても大したことない」
表現することに目覚めたマリオ。ネルーダが残したテープに「島の美しいもの」の音を記録する。そして、大勢の群衆の前で演壇に上り、詩を朗読することになる・・・
ラスト数分間の静かでドラマティックな展開。海辺のネルーダの表情。そしていつもと変わらず岸へ寄せる波。マリオを演じたマッシモ・トロイージの最後と重なるようなラストシーンに涙した。
動画は、文字の5000倍の情報量を持つという。「テキスト情報はコスパもタイパも悪いから動画を見た方がいい」と言っている人がいた。単純な情報量で言えば、詩や俳句や短歌は圧倒的にコスパが悪い。
しかし、詩を初めとする文学には、その言葉の数からは計り知れない想像の世界を拡げる力がある。感情を伝える力がある。そして、人の人生を変える力がある。
そんなことを、素朴な青い海の風景と郷愁を誘う名曲が一緒に教えてくれる。
小さな箱にそっとしまっておきたくなるような映画。
フォロアーさんたちとのこの語らいも、また楽し、ですね!
本当におっしゃる通り子どもたちには愛を語るための詩の心を(そしてその用法を) 大人たちは伝えていくべきと思います。
人と世の中が優しさと いたわりの様相に変わっていくためにね。
いい映画でしたねぇ・・
TS様
共感、ありがとうございました。
TSさんの的確で饒舌なレビューを読ませていただいているうちに、映画の感動が蘇り、目頭が熱くなりました。
>詩を初めとする文学には、その言葉の数からは計り知れない想像の世界を拡げる力がある。
この言葉で思い出したのが、ロバート・ゼメキス監督「コンタクト」(97)のクライマックスです。とても意外かつ感動的で大好きなシーンです。この場で、「イル・ポスティーノ」と「コンタクト」がコンタクトするとは思いもよりませんでした!(笑)
赤ヒゲでした。
言葉で表されたことで、そういう意味、受け取り方もあるかと気づかされることもあります。言葉の選び方、繋がり方が素晴らしくて何度も読み返すような文章に出会うこともあります。
言葉は、巧みに操る技術は後付け、まずは心にあることの核心をつかんで表に出すことが肝心なんだと、マリオを見ていて思いました。多分ネルーダもマリオのその感性に気づいて、感覚の奥にあるような深い話ができる相手、「親友」と思ったんじゃないでしょうか。