劇場公開日 2024年11月8日

「生きる喜びについての映画」イル・ポスティーノ 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0生きる喜びについての映画

2024年11月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

4Kリマスター版が上映されるということで、中学生の頃に見て大感動して以来の再視聴。当時は映画をたくさん見始めた頃で、この作品は自分にとっても映画を見るという体験の「原風景」の一つを構成している作品でもある。主演のマッシモ・トロイージが撮影終了12時間後に息を引き取ったというエピソードとともに語られることの多い作品だが、彼が演じた主人公の結末ともリンクするために、一層伝説化した側面がある。
だけど、そういう予備知識による上げ底すら必要ないほどに美しい映画でもある。南イタリアの小島の風景が本当に美しい。ここには豊かな自然と人のコミュニティがある。失業中の主人公は、チリから亡命してきた詩人パブロ・ネルーダ専任の郵便配達員となり、彼から詩の素晴らしさを教わる。人が言葉を覚えた瞬間、新たな視点、新たな知識を獲得した瞬間の喜びがこの映画には刻まれている。何かを知るということは素晴らしいことなんだとこの映画は教えてくれる。
死の悲劇よりも、新しく何かを知る喜びがスクリーンいっぱいに映されていることよってこの映画は「名作」と言われるべきだと思う。

杉本穂高