「観たかった度◎鑑賞後の満足度◎ “日曜日には『田舎の日曜日』を観よう”とダジャレをいっている場合ではないが、パリ郊外の田舎の日曜日の一日を描いて実に豊穣な一幅の絵のような名画。」田舎の日曜日 もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
観たかった度◎鑑賞後の満足度◎ “日曜日には『田舎の日曜日』を観よう”とダジャレをいっている場合ではないが、パリ郊外の田舎の日曜日の一日を描いて実に豊穣な一幅の絵のような名画。
①タイトル・バックに流れる子供(少女?)たちの笑いさざめく声にまず引き込まれる。これは良い映画かも?という予感をいやが上にも高めてくれる。
②主人公が画家だからか分からないが、主人公の老画家が住むパリに程近い田舎の風景が全カット絵になるような美しさ。
③その美しい老画家の家での或る夏の日曜日の一日を描いた、それだけの、でもとても豊かで且つしみじみとした気持ちにさせてくれる映画である。
④家政婦と二人きりで暮らす老画家のところには毎週日曜日一人息子が家族と共にやってくる。
どうもあまり父親を少し失望させる人生を送っているようで、妻に選んだ女性にも結婚にも父親は心では良く思っていないが、勿論口にも態度にも出さない。(私の母方の伯父の奥さんとその結婚には親族一同良い思いをしていないので状況はよくわかります)。
息子も父にはコンプレックスを抱いているようだ。
奥さんも夫の家族にどう思われているのを知っているのか知らぬのか、感じているのかいないのか、ごく自然に普通に振る舞っている。
一方、実は息子より愛している一人娘のイレーヌはめったに父親を訪ねないが、この日は珍しくやってくる。
若くしてパリで衣服のお店を経営している娘は奔放な恋愛生活を送っているようだが、自分からは言わないし父親も訊かない。
⑤こうして久しぶりに家族全員が顔を合わせた日曜日だが、子供がそれぞれ独立して一家を構えたり親許を離れて仕事をしている家族らしく、家族ならではの近しさ・親しみもありつつ遠慮もあり、それぞれのプライベートにはあまり立ち入らず、しかし親子の絆は切れずに間違いなく存在している。
⑥突然やってきた娘はパリからの電話でまた慌ただしく帰っていく。
父親は寂しくて仕方ないがやはり顔や態度には出さない。
帰る前に娘は父親と近隣のカフェに出かけ二人きりの時間を過ごす。
⑦かように、大きな事件や大した問題は起きないごくありふれた日曜日(娘が久しぶりにしかも最新の車―もちろん当時の―に乗って訪ねてきたことは父親にしてはちょっとした出来事だったけれども)の朝から夕方までを淡々と描いていく(でも見飽きない)演出がなんとも心地よい。
⑧息子一家が「明日は長男の試験があるから」といつもより早く帰ろうとすると、さすがに主人公は“私を一人にしないでおくれ。夕食は一緒に食べておくれ”と頼む。
夕食の席で“明日の試験、点数が悪くても僕のせいじゃないからね。”とチャッカリ言う長男。
それでも汽車に慌てて乗り込むことになりゆっくりと別れを告げられない(また来日曜日に会えるから良いけど)。
⑨息子一家を送ったあと、家路につく主人公の姿には、小津映画『晩春』『東京物語』のラストの笠智衆の姿が何故かダブって見えた。
⑩正に映画でないと表現出来ない映画だと言える。