「旅行は苦々し」イタリア旅行 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
旅行は苦々し
「男と女と車があれば映画はできる」というゴダールの有名な言葉の由来は本作。そのせいで過度に神格化されている向きがあることは確か。
煙を吹きかけると「イオン化(マジ?)」によって勢いよく烟る硫黄泉や、圧倒的な群衆が押し寄せる村祭りなど、ロケーション的要素に助けられている部分は大きい。しかし男女の間に渦巻く引力と斥力、そしてそれらの心理的運動を物理化する変換ツールとしての車があったからこそ、それらのロケーションに辿り着くことができたともいえる。
それにしても終盤の畳み掛けるような離婚キャンセルには笑ってしまう。明らかに雰囲気が悪い夫婦に対して「ポンペイで生き埋めにされた遺体の石膏を見に行こう!」と笑顔で誘いかける案内人は一周回って一番心がない。しかも土の中から姿を現した石膏が夫婦の遺体。「ワオ!夫婦だね!」じゃねえんだよな。
村祭りの群衆に揉まれるという描写を通じて夫婦間に蟠っていた悪感情が次第に絆されていく一連のシーンは見事なもの。そのあまりのご都合主義ぶりを、群衆の誰かが隊列の中の聖者に向かって放った「奇跡だ!」の一言が強引に説明づける。手癖程度の力加減でこういうことができるロッセリーニはやはりすごい。
ただ、物語的なところでいうとイングリッド・バーグマンがあまりにも不憫だ。彼女のいじらしさに対して夫の無味恬淡ぶりは何なんだ。お前カッコつけてんじゃねえぞ、と思ってしまった。最後も「愛してると言って」と言われて「それを利用しないと誓うか?」とわざわざ確認を取る冷酷さ。バーグマンさん、やっぱ離婚したほうがいいっすよ。
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