「謎の地球外生命体の恐怖がスリリングに展開する、ワイズ監督の映画職人的手腕」アンドロメダ… Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
謎の地球外生命体の恐怖がスリリングに展開する、ワイズ監督の映画職人的手腕
音響効果技師のスタートから名作「市民ケーン」の編集で評価されたロバート・ワイズ監督は、名匠としては異色のキャリアの持ち主だ。1950年代のSF映画の代表作「地球の静止する日」、ギリシャ史劇の「トロイのヘレン」、ジェームズ・ディーンが主演するはずだったがポール・ニューマンの出世作になったボクサーの青春物語「傷だらけの栄光」、スーザン・ヘイワードにオスカーをもたらした告発社会派映画「私は死にたくない」、そして映画史に遺るミュージカル映画の金字塔「ウエスト・サイド物語」と「サウンド・オブ・ミュージック」、更にスティーブ・マックイーンの名演が光る「砲艦サンパブロ」と、監督として50年の長きに渡って活躍した。B級映画からジャンルを問わず色んな題材を高水準の作品に仕上げている。この作品も面白さと丁寧な作りでは「地球の静止する日」に劣らないのに、公開当時は余り話題にならなかった。
謎の地球外生命体の恐怖を扱ったこの題材は、目に見えない微生物の人体への侵略という点で今日の人類に課せられた新しい国際問題の病苦になっている。その関心から見ると、とても分かり易く、緊張感を持って鑑賞出来るのではないだろうか。制作されて50年経った科学の進化は、高度なコンピューターシステムを構築し、医療技術も細菌学も発展していると思われる。それでも描かれた1970年代を思い起こすと、地下研究所のシステムや機能の高さの斬新さは特筆に値するし、原作の先鋭性とワイズ監督の演出の見せ方の巧さがある。想定された軍用細菌兵器研究の秘密事項から、拡散防止の最終手段の自爆システムまでが、リアルに描かれている。プロローグの謎の恐怖から、解析が進むほど恐怖が増す映画的な緊張感の持続も優れている。ただ初見時はクライマックスが007映画のように感じたものだが、見直して不満に感じたのは結末の物足りなさである。老人と赤ちゃんのその後が知りたいし、基地内の微生物をどう始末したのかも分からない。
制作費の殆どは地下秘密基地の建設費に使われたのだろうか。実験用動物の描写も無駄なく丁寧で素晴らしい。高額な有名俳優をキャスティング出来なかったことは、作品の出来が良かっただけに惜しまれる。しかし、4人の科学者の中の唯一女性のルース博士を演じたケイト・レイドが良い味を出していて、存在感のある個性的な科学者を見事に演じている。ワイズ監督の的を外さず、映画的な手腕が手堅さになって、最後まで見せる醍醐味は充分あります。題材の普遍性と演出の巧みさが合致したSF映画の隠れた秀作と思います。