劇場公開日 1974年12月21日

「最近の味付け濃い目のアメリカ青春映画と比較すると薄口に感じるが、後のスタンダードになる原点としての価値はある」アメリカン・グラフィティ ミラーズさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0最近の味付け濃い目のアメリカ青春映画と比較すると薄口に感じるが、後のスタンダードになる原点としての価値はある

2025年3月13日
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ジョージ・ルーカス監督の長編2作目にあたる作品で、前後の『THX 1138』と『スター・ウォーズ』との類似点も多い作品で、育った世界から自由や使命を求めて旅立つ事が根底にあるのが分かる。(『ウィロー』や『スター・ウォーズEP1』も)

オーソドックスな演出の手法は、兄貴分のコッポラと似てる部分もあり、コッポラとの違いは役者への演出が弱い部分だと思う。
ちなみに『ゴッドファーザー』を編集中だったコッポラは、気晴らしに当時話題になっていた『フレンチ・コネクション』を見てその斬新な出来にショックを受け自分の作品が古臭いと感じたそうです。

今回劇場で本作を見直してみると、やはり非常オーソドックスな作品で、一つ一つのエピソードも大人しく、最近の青春映画にある過激な下ネタなども抑え目に感じるが、一晩の群像劇としては上手くまとまっており、当時ほとんどなかった高校生達の青春映画としての先駆的な価値は十分にあると感じた。

特に撮影は夜のロケ撮影主体で、夜間の移動する車内での芝居を撮るなど挑戦的で、低予算な面も相まってドキュメンタリータッチにも取れる。
撮影は35mmのハーフサイズ(約16mm相当)で行われて現在のスタッフ記録には名撮影監督のハスケル・ウェクスラーもあるが、アドバイザー的役割の様子で記録されている感じで、多くの場面はその後に映画には名前が見当たらないロン・イヴスレイジとジャン・ダルクインの二人とにおそらく監督のルーカスもカメラを回していたのだろうと想像できる。(ルーカスはゴッドファーザーでも一部撮影ロケと演出してる。詳細はソフトのコメンタリーにある)
フィルム面積の小さいハーフサイズ撮影だと、画質などのデメリットはあるが、低予算で照明もあまり使えないが、奥行きのある人物配置カットなどでフォーカスなどのピント位置が前後広めに合いやすくなるメリットがありそれを生かして車内の描写が多い。

懐かしい60年代あたりのヒット曲をふんだんに聴けるのも本作の特徴で、音響も当時としては最新になるドルビーステレオを導入しており、細かい環境音(例えばパトカーにワイヤーを仕掛ける場面では映像には出てこない鉄道の音がする)なども足されて、後のスターウォーズなどでの音響へのこだわりも垣間見えると思う。

ラストの空港での場面と主要人物達のその後を説明する写真とクレジットは、2年前に『フレンチ・コネクション』などでも使われた手法だが、こちらの方は62年という青春の終わりと後のベトナム戦争の泥沼を深く連想させて作品のハイライトでもある
後にアニマルハウスなどの映画でもパロディにされている点やオールディーズナンバーの曲の取り合わせは、1958年のイスラエルが舞台なった青春映画『グローイング・アップ』(1978年)シリーズにも引き継がれている(下ネタ多めだが)

出演者で印象に残るのは、やはりジョン役のポール・ル・マットで、学校を卒業してからクルマいじりと街道レースに、のめり込み夜な夜な愛車を飛ばしてナンパしている不良だが、友人のピンチには駆けつける頼もしい男を粋に演じている。
彼がTシャツの袖に煙草のキャメル入れている姿も昔マネしてたな。

「バディ・ホリーが死んでロックンロールは終わった」
「ザ・ビーチ・ボーイズ?あんなのロックじゃない」
などのセリフも印象で、どこか生き急ぎ陰りのある姿が数年後の悲劇を予感させる。

演じたポール・ル・マットは、1975年の青春映画の佳作『雨のロスアンゼルス 』(日本版のソフト化望む)でも似たような役柄で、悲劇的な結末を迎えるが、確かこの作品だと「ザ・ビーチ・ボーイズ」のファンの役だったと思う。
ポール・ル・マットは、その後は日本未公開だが傑作といわれる1980年のジョナサン・デミ監督(『羊たちの沈黙』など)の映画『メルビンとハワード』でも1968年に起きた大富豪ハワード・ヒューズとの出会いから始まる実話を題材にしたコメディや1950年代から地球に来訪していた宇宙人を題材にしたノスタルジー感のある侵略SF 『ストレンジ・インベーダーズ 』(1983年)などに出演していて、1950年から60年代の時代を引きずる役柄が多い印象

ちなみにジョンがリスペクトしてる1959年に事故により早逝したメガネをかけたロックンローラーことバディ・ホリー は1978年に伝記映画『バディー・ホリー・ストーリー』公開されてバディ役ゲイリー・ビジーは、アカデミー主演男優賞にノミネートされている程の熱演をしているが何故か日本未公開で、1987年のバディー・ホリーと一緒(ビッグ・ボッパーも)に飛行機事故により17歳で死んだ伝説のロックンローラー、リッチー・ヴァレンスの伝記映画佳作『ラ★バンバ』にもマーシャル・クレンショウ(この作品意外に名前を聞かない方)演じるバディー・ホリーが登場して一曲披露してる。

テリー役チャールズ・マーティン・スミスの青瓢箪ぶりも忘れ難い。
ちなみに彼はスティーブ役のロン・ハワードと共に74年に公開された巨匠リチャード・フライシャー監督の古き良き西部の神話破壊劇でもある佳作『スパイクス・ギャング』でも西部のアウトローに憧れる田舎の若者を悲劇を体現していて本作と連続してみると更に感慨深い。(リチャード・フライシャー監督は、その翌年の『マンディンゴ』でも『風と共に去りぬ』などの古き良き南部幻想を破壊してくる)

本作は1962年が舞台なので、メインの人物にアフリカ系アメリカ人などはほとんど当時せず、高校のパーティ場面に数人の男女が確認される程度なのだが、不良グループなどでヒスパニック系の面子が登場する件などもあり時代が伺える。

今回4K化された映像は、カリと硬い面が目立つが元がハーフサイズ撮影の画質だったので見やすくはなっているのと全編に流れる懐メロと全盛期のアメ車が心地よく、最近の味付け濃い目のアメリカ青春映画と比較すると薄口に感じるが、後のスタンダードになる原点としての見る価値はあると思う。

余談

余談
確かパニック映画の『エアポート'75』(又は77)の劇中の機内で本作が上映されていていてトラブルにより上映が中断され残念がる乗客の反応が印象的でしたが、当時は実在する作品とは知らず、後年名画座でみて「この作品だったのか!」と知った次第(製作会社が同じユニバーサル映画なので使い回されたのかと)

ミラーズ
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