劇場公開日 1985年2月

「甘味な哀しみ」アマデウス penさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0甘味な哀しみ

2022年8月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

「2年来、死は人間たちの最上の友だと言う考えにすっかり慣れております。僕は未だ若いがおそらく明日はもうこの世にはいまいと考えずに床に入ったことはありません。しかも僕を知っているものは誰も僕が付き合いの上で陰気だとか悲しげだとか言えるものはないはずです。僕はこの幸福を感謝しております。」ドンジョヴァンニ構想前に、父親に送ったモーツアルトの手紙

モーツアルトは長調の作品が圧倒的に多いですがその多産の谷間に思い出したように出現する短調の曲には、とりわけ美しく心を揺さぶる傑作が多いように思います。それは天からの啓示と思える「明るさ」「楽しさ」「優美さ」と言った彼本来の表相に、正真正銘の天才のみが持つ「孤独」や人間誰もが迎える「死」と言うものに対する深い思いが、時折その顔を覗かせ表相と呼応しあって、甘美な哀しみを紡ぎ出すからなのでしょうか。

この映画では彼のこうした明るく楽しいが悪ふざけが大好きな表相と、そこに横たわる天才の深い孤独や死に対する半ば呆然とするような深い哀しみの実相が、努力の人サリエリとの対比で徐々に浮き彫りにされていきます。そしてそれらがモーツァルトの美しい楽曲と絡み合い極めて美味で奥行きのある作品に仕上がっているように思うのです。

公開(1984年)当時、映画館で鑑賞しました。

pen