アポロンの地獄

劇場公開日:2022年6月18日

解説・あらすじ

イタリアの異才ピエル・パオロ・パゾリーニが詩人ソフォクレスのギリシャ悲劇「オイディプス王」を映画化し、パゾリーニ監督自身の人生を投影しながら撮りあげたドラマ。世界各国の民族音楽とモロッコの荒涼とした砂漠地帯を背景に、神秘的な映像美で描き出す。古代ローマ。1人の男が荒野に赤ん坊を捨てて去っていく。通りすがりの男に拾われた赤ん坊はコリントス王のもとへ運ばれ、オイディプスと名付けられて王と王妃に愛されて育つ。やがて逞しく成長したオイディプスは、アポロンの神殿で「父親を殺し母親と交わる」という神託を受ける。運命から逃れるため故郷を離れた彼は、荒野をさまよううちにライオス王の一行と遭遇するが、そのライオス王こそオイディプスの真の父親であった。

1967年製作/105分/イタリア
原題または英題:Edipo Re
配給:ザジフィルムズ
劇場公開日:2022年6月18日

その他の公開日:1969年3月8日(日本初公開)

原則として東京で一週間以上の上映が行われた場合に掲載しています。
※映画祭での上映や一部の特集、上映・特別上映、配給会社が主体ではない上映企画等で公開されたものなど掲載されない場合もあります。

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映画レビュー

4.5 人間は「自我」を得た瞬間、世界を失う

2025年10月6日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

パゾリーニの『アポロンの地獄(Edipo Re)』は、古代神話の再現ではなく、人間が「自我」を獲得し、理性によって世界と分断されていく過程を描いた哲学的寓話だと思います。モロッコの荒野で撮影された序盤では、民族も時代も混ざり合い、日本的な笛や太鼓の音、アフリカやアジアの旋律が響き、まだ人間が「世界と一体だった頃」の意識が再現されています。

物語の核にあるのは、予言に抗おうとするオイディプスが結局その通りに父を殺し、母と交わるという悲劇です。しかしパゾリーニが描きたかったのは、運命ではなく「知ること」の悲劇でした。人間は理性を手に入れることで自由を得たが、同時に世界との一体性を失い、孤独を抱える存在になった。オイディプスが「罪人を探していたら自分自身だった」と気づく瞬間、それは自己認識が生まれる瞬間=自我の誕生です。彼が自らの目を潰すのは、もはや“見える”という行為そのものが罰になったからです。見ること=知ること=理性が、自分を破壊する。闇に戻ることでしか、人間は贖われない。

終盤、盲目となったオイディプスが現代の都市をさまようシーン――教会(信仰の象徴)と工場(理性と唯物の象徴)が並ぶ光景――は、古代と現代をつなぐ鏡像です。教会は「神がいた時代」、工場は「神なき時代」。この二つの対比に、パゾリーニ自身の内的矛盾――マルクス主義と神秘主義、精神と物質、聖と俗――が重なっています。彼はこの二項を対立としてではなく、共存の裂け目として描きました。工場の労働には祈りのリズムがあり、欲望や肉体の中にも神的な痕跡が残っている。神を失った現代においても、人間の営みそのものが聖なるものの最後の居場所である――パゾリーニの“信仰”とは、神そのものではなく「失われた聖性」への信仰だったのです。

この映画が突きつけるのは、理性によって自由を得たはずの人間が、その理性によって再び囚われているという皮肉です。すべてがメタファーで構築されたこの作品は、理解よりも“感じ取る”ことを要求してきます。哲学や宗教への素養がなくても、観る者はおぼろげに“何か”を感じ取るはずです。その感覚こそ、パゾリーニが到達した領域――知ることの罪と、見えなくなることの救い――の核心なのだと思います。

鑑賞方法: BSの録画 (イマジカBS)

評価: 94点

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neonrg

5.0 エディプスコンプレックス

2025年1月16日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

で知られるオイディプス王の物語
手持ちカメラによる荒々しい映像で描かれる世界は艷やかで力強かった
ギリシャを野蛮に描いた点が画期的だったそう
音楽は日本の神楽らしい

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悠

3.5 オイディプス王‼️

2024年7月11日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

怖い

知的

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活動写真愛好家

4.5 映画が始まった場所で映画が終わった。

2022年6月21日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

冒頭の映像はパゾリーニが青空を見上げて自分が見たいもの、瑞々しい木々の緑の葉を彼の視線で映してるのかなあと思った。半ばまでは、そうだね、という感じで能の鳴り物と笛と荒野。「王女メディア」の世界だった。流す涙も。でもフランコ・チッティは「アッカトーネ」の時と同じやさぐれ男にしか見えなかった。

ところが!オイディプス王になりそもそも自分の生まれ育った所に戻ってからの彼はとても良かった。町と市民を思う王は一方で「まさか」と思い悩み苦しむ。貴い生まれの者だけに許され突きつけられた苦悩と懊悩。両目を潰してからの顔も身体も言葉も威厳があって光輝いていた。

神託や預言者の言葉なんてもう過去のものとなったイタリア。経済成長の波に乗って醜い工場や壁や煙。その中で彼とAngelo(まさに天使のような無垢の笑顔!「テオレマ」でも笑顔がはちきれそうな郵便屋さんだった)は青空と緑したたる野原に向かう。

パゾリーニの映画にだんだん慣れてきたかなあ。いきなりアップとか台詞少ないとか絶叫とか衣装の美しさとか荒野とか東洋と西洋の音楽。正統をあえて外す。そして独特というか奇妙なカメラワーク。パゾリーニの映画はこれで4本見たことになるが今のところこの映画が一番好きだ。

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talisman

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