「天才コメディエンヌを失った今、感じる半端ない喪失感」アニー・ホール 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
天才コメディエンヌを失った今、感じる半端ない喪失感
ダイアン・キートンの突然の訃報に接し、今一度再見してみた代表作・その1。
ブルックリン育ちのコメディアン、アルヴーが恋人のアニーと過ごした日々を振り返りながら、相手が側にいる時はわからない、共に過ごした日々の尊さを、マシンガンのように繰り出される皮肉が効いたジョークや比喩を使って描いている。監督と脚本を兼任するウッディ・アレンは、彼が生まれ育ったニューヨークとアニーが移り住むロサンゼルスとの対比や、男女の間にあるセクシュアリティにまつわる固定概念、等々、セリフの中に膨大な量の情報を仕込んでいるため、英語ネイティブではない観客の動体視力が追いつかない。
でも、突然車の中から降りてくる登場シーンから、まるで風景の一部に溶け込んだようなアニー、ダイアン・キートンのあるようでないような存在感が、慌ただしい物語の行間から浮かび上がって、そこはかとない余韻を残すことは確か。キートンがいなくなった後に見てみると、劇中のアルヴーと同じく、彼女がどれだけ貴重な存在だったかを実感するのだ。
力演、名演とは明らかに違う、クレバーで自然な演技でオスカーを獲ってしまった、天才コメディエンヌ、ダイアン・キートン。彼女がいかにユニークな俳優だったか!?今、感じている喪失感は半端ない。
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