「悪夢」悪魔のいけにえ Garuさんの映画レビュー(感想・評価)
悪夢
「人生なんて悪い夢を見ているようなものだー」と、若い頃、なにかの本で読んだセリフを今でも覚えている。 当時はキザな言い回しぐらいにしか思っていなかったが、自分が様々な現実に対峙しながら歳をとってくると、いやはや、これは事実なのだと思い改めた。
確かに、現実は悪夢なのだ。
極めて稀な事例ではあるが、例えば、一人で山登りをしているときにヒグマに捕食されてしまうような運命。 一縷の望みにすがろうとも、ヒグマに遠慮や躊躇はない。 断末魔の叫びに反応することもなく、生きたまま足や腹を喰い千切り、食べ続けられる。 受け入れ難い非日常であっても、これが「死」のひとつのあり様であり、人間が直面し得る現実であることは事実なのだ。
我々には、運命を避ける権利も力も無い。
トビ―フーパ―がフィルムに焼き付けたかったのは、まさにそういった現実の一側面なのではないだろうか。 フィクションではあるが、実際の事件を元にしているこの作品には、「死を恐れる人間だけが体験し得る現実の恐怖と絶望」が写し出されている。
恐ろしいシーンなのに、どこか滑稽にも見える。 それは、運命の前で全く無力でしかない人間の姿が、見事に描写されているからだろう。
若い頃に観たときも思ったが、女優の恐怖に叫ぶ演技が尋常ではない。 あれは演技なのか。 一体、どうやって演出したのだろうか。
ホラー映画の頂点に君臨するだけではなく、映画史に残る傑作だと思っている。
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