劇場公開日 1954年9月14日

青い麦のレビュー・感想・評価

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4.016歳の少年の性の目覚めを瑞々しい感覚で描いたオータン=ララの佳編

2022年5月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

フランスの女流作家コレット(1873~1954)の50歳の時の代表作の映画化である。16歳の少年フィルが避暑地で出会った上流婦人ダルレに夢中になり、恋の手ほどきを受ける恋愛映画。フィルは母親と従妹の家族と共に毎年のようにブルターニュの別荘を訪れ、夏のバカンスを過ごしているようだ。ただ違ったのが、16歳のフィルと従妹の15歳のヴァンカがお互いに異性を意識してくる年頃になったことである。幼馴染のこの男の子と女の子が他愛無いことで喧嘩したり仲良くなったりしている日常が微笑ましく描かれている。このまま自然に性に目覚めて行くのかと観ていると、まだ男女の意識のズレがある。ところが二人の前に“白衣の夫人”と呼ばれるダルレ夫人が現れる。フィルが郵便配達員から彼女宛ての速達を預かり訪ねると、ダルレ夫人は温かく迎えてワインをサービスしてくれた。海岸で初めて出会った時からフィル少年に好意を抱いていたようだ。それから度々フィルはダルレ夫人の家を訪れるが、ある日の夜、忍び込んできた少年を夫人は寝室に招き入れる。夜が明ける前にフィルは別荘に戻り、自分のベットに横になる。朝になり、母親が起こしに入って来ると、息子の肩に愛の痕跡を見つけ指摘するが、それ以上は突き詰めない。フィルもそれを知られても大して動揺もしない。翌日もフィルはダルレ夫人の別荘に忍び込んで関係を持つが、それが積み重なっていくと流石に夫人も女性として苦しまなければならない。

オータン=ララ監督の演出は、ファーストシーンで強風による海水浴の騒動をルネ・クレール風タッチに描いて出色である。幼児たち一人一人に紐を付けて遊ばせているのには大変驚かされたが、可笑しい。またボート遊びをしていたフィルが転覆して溺れかけ、裸になって何とか砂浜に辿り着くも隠せるものが無くて慌てるシーンなど、サイレント時代のコメディ映画のようだ。女友達のマルゴが偶然通りかかり助かるが、彼女は積極的にフィルを誘惑する。ヴァンカとは対照的な女の子である。これらフィルの周りの生活描写の喜劇映画のような楽しい雰囲気が、本筋のフィルとダルレ夫人の関係の厳しさと深刻度を際立たせている。映画が制作された時代でもモラル的に問題があったと思われるが、小説が発表された1920年代なら尚更であっただろう。恋愛映画の早熟さを特徴とするフランス映画らしい題材であり、16歳の少年の心理と性の衝動を瑞々しい感覚で描き切っている。俳優ではヴァンカを演じたニコール・ベルジェが特にいい。

  1980年 1月30日  フィルムセンター

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Gustav