愛を弾く女のレビュー・感想・評価
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かくもかなしき思慮深き男の運命かな
個人的に今まで観た悲劇系のラブストーリーなら断トツでこれ一番。タイタニックなんてこれに比べれば子供だましです。
ダニエル・オートゥイユ演じるしがないバイオリンの調律師と、その上司を恋人にもつ前途有望なバイオリニストの女(エマニュエル・べアール)の哀れな恋物語。お互いに一目ぼれだが、自分の気持ちを告白しようとしない男に業を煮やし、女から詰め寄る。が、あっさり「君なんて好きじゃない」と男は言ってのける。もちろん男は嘘を言っているのだが、ある意味それは彼の複雑な境遇の心境を言い表すにはベストな言葉。
男は、余命わずかな親友に頼まれ安楽死の注射も顔色ひとつ変えずに打ってしまう人。彼の優しさの横に常にいるのは、世界を深く見据えてしまう故の、誰にも理解しがたい愛に満ちた冷たさ。こういう人は孤独を愛するものです。
ミヒャエル・ハネケ監督がダニエル・オートゥイユを「一見普通の常識人に見えるが、心の底にやましさがありそうな役をやらしたら抜群」と評したように、この映画の彼の演技は一生心に残るものとなっています。最後の、ガラス越しに映るダニエルの姿が、光の反射と共にかすんでいく映像が、この映画のすべてを語っていると思う。素晴らしい。監督さんただものじゃありません。
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