「つかみ良し、官能シーン良し、そして映画史に残るラスト10分。死ぬまでに観ておきたい恋愛映画の筆頭!」愛人 ラマン コタツみかんさんの映画レビュー(感想・評価)
つかみ良し、官能シーン良し、そして映画史に残るラスト10分。死ぬまでに観ておきたい恋愛映画の筆頭!
初老の自分には、胸に染み入る珠玉の物語だった。
タイトルの「愛人」から連想するいかがわしさや浅ましさ、快楽をむさぼる卑俗さからさえも逸脱して、おそらくは映画史に残るだろうラスト10分の神がかったような美しい情景とこみ上げる少女の情動に、観た後しばらく動けなかった。
本作を特別なものにしているのは、おおよそ愛人関係とは呼べそうもない2人の特殊な関係性にあるだろう。
華僑資本家の御曹司である青年は、運転手つきの豪奢な車に乗り、仕立てのよい白いスーツを着こなして、いかにも金持ち然とした振る舞いをしているが、その実は家柄としきたりにがんじがらめにされ、自分の職さえ持てない自由のない男で、自らを「ひ弱な男」と卑下している。
一方の少女は、フランス移民でありながら父の死により家が貧困に陥り、暴力と苦悩と絶望の中に生きているが、なにより性への強い関心を持っている。そして、この少女の性への好奇心、快楽の喜びこそが2人の関係を駆動させていくのだ。
実際、二人の愛人関係は、出会った最初から逆回転している。
船上で声をかけた中国青年がオドオドしながら話す一方で、少女はまるで召使いに車で送らせるかのように堂々としているし、最初の情事の場面でもためらう青年に対して少女は「愛はいらないわ。ただ抱いて欲しい」と告げる。
こんな年の離れた愛人関係でさえも、アジア人蔑視の差別は色濃く映し出されるのかと驚くばかりだが、フランス人である少女は青年との肉体関係を主導し、生活費を工面してもらいながらも常に青年よりも優位に立ち、少女の家族は中国青年を徹底的に見下しさえする。
そして、二人の愛人関係は、いびつに逆回転したままラスト10分の港での美しくも切ない別れを迎えるのである。
70歳になった時、こんな風に振り返れる恋愛、性愛の思い出が自分にはあるだろうかと、はたと考えさせられる映画だった。