シネマ歌舞伎 野田版 鼠小僧のレビュー・感想・評価
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演劇×歌舞伎を、けれん味なく勘九郎が体現
平成15年8月に旧歌舞伎座での公演を収録した、記念すべきシネマ歌舞伎第一作。
野田版の演出は、口語体のせりふでテンポ良く展開し、歌舞伎としては話の内容がとても分かりやすい。
回り舞台を多用したスピーディーな演出と相まって、現在まで数多く製作されているシネマ歌舞伎の中でも、万人におすすめできる快作である。
金に目がない棺桶屋の三太が、ひょんなことから鼠小僧に?!
中村勘九郎が18世勘三郎を襲名する記念上映でもあった勢いのある舞台。
ユーモアたっぷりの長ぜりふも、抜群の反射で体現していく。そして、場の空気を感じながらのアドリブ力。
しっかりした型を土台としながら型を崩していくことにより、人物に命が宿る。それが他の登場人物にも影響し、舞台全体に命が宿る。
勘九郎は、おちゃらけたせりふもけれん味なく演じ、思わず笑顔にさせられる。
脇を固める役者陣も、個性豊かな芸達者が揃い、これでもかと笑いを提供してくれる。
終盤、追い詰められ、逃げ道を用意されながらも、譲れない人情を守るべく自らの道を絶つことに…かぶき者が英雄に変わる瞬間だ。
終始エネルギーを保ちながら、汗だくで軽妙に舞台を立ち回る勘九郎。
観客に、日常を離れ束の間でも楽しんでほしいという信念が伝わってくる。その役者魂ゆえに当代切っての人気者だった勘九郎が、勘三郎として新歌舞伎座で思う存分立ち回る姿を今さらながらに見てみたかったと思うが、その真髄が6代目勘九郎、七之助、勘太郎、長三郎をはじめとする中村屋に脈々と受け継がれていくことを楽しみにするばかりである。
ひとつ感心したのが、子役の清水大希君。当時小学3年位にしては、せりふ量も多いし、大人の役者との掛け合いも見事で、「三太」を「サンタ(クロース)」たらしめる重要な役所を堂々と演じている。
「うちの子になってよ」と、この数年後、勘三郎の部屋子として2代目中村鶴松を襲名。現在は女形も多くつとめるイケメン若手歌舞伎役者になっていた。
この世にたくさんの宝を残してくれた勘三郎さんに、改めて有り難うとお疲れ様を言いたい。
演劇と映画の「絶妙なコラボレーション」
映画「シネマ歌舞伎 野田版 鼠小僧」(野田秀樹演出)から。
わが町の映画館(シネコン)で上映されなければ、
たぶん一生観なかったであろう作品の1つ。
演劇は「劇場」、映画は「映画館」という私の固定観念から、
どうしても結びつかなかった関係であったが、
歌舞伎の舞台作品をHD高性能カメラで撮影し、
映画館にてデジタル上映するという映画と演劇のジャンルを超えた
新たな取り組み」という説明に、私の好奇心が動いた。
初めての体験だった「シネマ歌舞伎」であるが、
予想外(?)にも、平日の昼間だというのに多くの観客があり驚いた。
「映画ファン」なのか「歌舞伎ファン」なのかは知らないが、
涙あり笑いありの演劇の面白さが会場内を包み込み、
偶然横に座ったご婦人も、声を出して笑ったりしてたから、
どちらかと言えば「劇場」に近い雰囲気だったようだ。
これからも、いろいろな利用方法を模索しながら、
大スクリーンでしか伝わらない「臨場感」を味わいたいと思う。
これだけは「自宅でDVD」をお薦めしない。(笑)
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