劇場公開日 2005年1月29日

「【遺された…】」トニー滝谷 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5【遺された…】

2021年8月20日
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今日、2021年8月20日夕方に観に行く予定にしている村上春樹原作の「ドライブ・マイ・カー」も、この「トニー滝谷」も、妻を失うという話がベースになっている。

この「トニー滝谷」は、なかなか上手い表現は見つからないが、村上春樹作品の雰囲気を非常によく伝えているように感じる。

短編をモチーフにして、物語の幅を大きく広げて作られた作品はあるが、これに対して、「トニー滝谷」は、雰囲気が非常に村上春樹作品的なのだ。

そして、この作品を特徴付けるのは、故人の遺したものと向き合うというところではないのか。

妻の遺した膨大な洋服。
父の遺した貴重なレコード。

それらは、故人そのものなのだろうか。
それとも、故人の何か生きた証のようなものなのか。
或いは、故人を補完するもの…。

家族を失った喪失感、或いは、故人と向き合うというより、遺されたものに囚われてしまうことで感じる孤独。

処分してしまったところで、その意味を考え続けることからは決して逃れられず、それは、まるで、亡霊のように付き纏う。

そして、もう一つ、残された自分自身は、彼等にとって、どのような存在であったのか。意味はあったのか。

自分も遺されたものであることに違いはないはずだ。

ずっと、考え続けなくてはならない。

洋服やレコードは、実は、遺された自分自身のメタファーではないのか。

村上春樹作品に、よく取り沙汰される喪失感や孤独といったものと少し異なるフレーバーが加えられた作品のように感じる。

オウムのテロや、阪神淡路大震災を経たから、少し作風が変わったという人もいたりするが、それは、作品を読んだ人や、こうした映画を観た人が、それぞれ感じるものだろう。

ただ、エピローグに加えられた原作にはない部分に、映画としての解はあるのかもしれない。

結局、答えを見出せず、愛した人の幻影を、人混みのなかに探してみたり、見つけてしまうことは、僕にはある。

ワンコ