「【遺された…】」トニー滝谷 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【遺された…】
今日、2021年8月20日夕方に観に行く予定にしている村上春樹原作の「ドライブ・マイ・カー」も、この「トニー滝谷」も、妻を失うという話がベースになっている。
この「トニー滝谷」は、なかなか上手い表現は見つからないが、村上春樹作品の雰囲気を非常によく伝えているように感じる。
短編をモチーフにして、物語の幅を大きく広げて作られた作品はあるが、これに対して、「トニー滝谷」は、雰囲気が非常に村上春樹作品的なのだ。
そして、この作品を特徴付けるのは、故人の遺したものと向き合うというところではないのか。
妻の遺した膨大な洋服。
父の遺した貴重なレコード。
それらは、故人そのものなのだろうか。
それとも、故人の何か生きた証のようなものなのか。
或いは、故人を補完するもの…。
家族を失った喪失感、或いは、故人と向き合うというより、遺されたものに囚われてしまうことで感じる孤独。
処分してしまったところで、その意味を考え続けることからは決して逃れられず、それは、まるで、亡霊のように付き纏う。
そして、もう一つ、残された自分自身は、彼等にとって、どのような存在であったのか。意味はあったのか。
自分も遺されたものであることに違いはないはずだ。
ずっと、考え続けなくてはならない。
洋服やレコードは、実は、遺された自分自身のメタファーではないのか。
村上春樹作品に、よく取り沙汰される喪失感や孤独といったものと少し異なるフレーバーが加えられた作品のように感じる。
オウムのテロや、阪神淡路大震災を経たから、少し作風が変わったという人もいたりするが、それは、作品を読んだ人や、こうした映画を観た人が、それぞれ感じるものだろう。
ただ、エピローグに加えられた原作にはない部分に、映画としての解はあるのかもしれない。
結局、答えを見出せず、愛した人の幻影を、人混みのなかに探してみたり、見つけてしまうことは、僕にはある。