ある朝スウプはのレビュー・感想・評価
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寝る前には、観ないに限る
「ソラニン」の脚本を手掛けた高橋泉が監督を務め、公開当時に高い評価を集めたラブストーリー。
物語は、冒頭から絶望の香りが充満している。限りなく陰気な空気、病院の閉塞的な雰囲気、そして主人公がいきなり襲われているパニック障害という難題。
本作に立ち向かうという覚悟を決めた時点で、このネガティブな世界観はある程度予期できている観客でも、ここまで問答無用に突きつけられる無感情、冷たい台詞回し。作品を追いかけていく自信が、出鼻から挫かれる。
それでも、観客は本作の軸となる虚無感に打ちひしがれながらも、物語を展開していく一組の男女が作り上げる熱に目を奪われていく。
それは、何とかしてお互いを理解していくために言葉を無駄遣いしていく労力から生まれる浪費熱であったり、相手を自分のテリトリーに引っ張り込もうと力ずくで傷つけあう衝動熱であったり。
この冷徹な現実と、暴走する情熱の化学反応は、単純に破滅の恋を描こうと非情な物語展開を持ってくる大多数の作り手の姿勢からは生まれてこない。破滅の中に、しっかりと無駄の無い台詞を繋ぎ合わせる事で再生、屹立、前進まできちんと描き切る作り手の職人芸が活きている結果だろう。
特に、その緻密な演出が光る場面がある。
とある事情でトイレに逃げ込んだ主人公に、窓越しに向き合う恋人。向き合うことを恐れ、目を背け、現実から逃げてきた二人が、初めて目をつき合わせて交わす会話。罵倒、説得、諦め、虚栄。もがき苦しむ二人の葛藤と野生を剥きだしにする空間を支配する、ぎらぎらと妖しく光る眼差し。
それは相手に伝えようとする想いが発散し、むせ返るような息苦しさと幸福感を作り出す。映画を知る、人間を知る作り手だからこそ描ける、異質な言葉の衝突。なかなか、真似できる芸当ではない。
とはいうものの、やはり観賞後に残るのは大きな喪失感と、ため息。気持ちを強く持って男女の止まらない堕落と、小さな前進を大らかに見守る包容力が試される一本である。心地よい睡眠の前には、心底お勧めできない悲しさがある。
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