「グロテスクでありつつ崇高な愛の世界」ヴィタール Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
グロテスクでありつつ崇高な愛の世界
クリックして本文を読む
「ヴィタール」とは「生命に不可欠な器官」、または「核心」。事故で記憶を失った医大生が、解剖実習にのめりこむことによって、「記憶」を取り戻しつつ、次第に「現実」を見失っていく・・・。無機質な解剖実習室や主人公の荒れ果てた部屋、または昭和の佇まいを残す商店ですら、どこか硬質で近未来チックな舞台。青年の暮らす「現実」世界は青みを帯び、薄暗い。登場人物は張り付いたような無表情のまま、悲しみや絶望や怒りを表現し、さながら能面のような気迫を感じる。その生活観の無い「現実」世界とうって変わって、明るい陽光を浴びた南の島の楽園のような風景。そこは医大性の死んだ恋人が暮らす、この世とあの世の狭間・・・。そこで美しいコンテンポラリーダンスを披露するのはバレリーナの柄本奈美。彼女の演じる医大生の恋人は、死の間際、自分を献体として、愛する人に解剖されることを望む。彼女の思惑通り、男は彼女の“骨の髄まで”自分の物とし、「核心」を得てゆく。男にとってその「核心(愛)」はフェイクか、リカルか?世界のクリエーターに絶賛される塚本ワールドは、グロテスクであり崇高な愛の世界だ・・・。
コメントする