「あの夏の記憶」雲のむこう、約束の場所 supersilentさんの映画レビュー(感想・評価)
あの夏の記憶
少女と過ごした鮮やかな夏、そこで交わした約束。恋に似た感情の昂りは「あの夏」を過ごしたかつての少年になら、誰でも思い当たる節があるだろう。
大人になった僕たちは、最初の恋がうまくいかないことをよく知っている。夢破れ傷つくこともすでに経験済みで、だからこそ、「あの夏」の鮮やかさに目を奪われる。
物語後半、事態は急展開を見せる。「南北分断」の政治的状況が緊迫化、いつのまにか成長した少年たちによる「世界救済」の展開には、まるでエヴァンゲリオンかとツッコミを入れたくなるほど。少女の夢と塔の覚醒がシンクロしていて、並行宇宙が世界の記憶を置換するというプロットなど、まんまエヴァじゃんと笑ってしまった。とはいえエヴァ同様、哲学的なメタファーに満ち、とても興味深い。
大事な人を救いたい。世界を救いたい。その一つしか選べないという究極の選択にどう決着をつけるか。とても面白い設定だと思ったが、結末はやや予定調和的。少女は救う。しかし世界が失われないように、塔を破壊。そんな当たり前のやり方ならあんな奇襲的方法取らなくてもっていう疑問。
でもこれは虚構のアニメ。面白ければなんでもいい。
愛しい少女の存在と、この世界を同一視するのは間違っていない。好きな子のことばかり考えて1日を過ごした、かつての僕らの世界はまさに、世界=少女であったはずだ。愛する少女と夢で繋がり、ありえた可能性に思いを馳せる。その夢想は午睡の白日夢のようで、いつまでも叶わぬ夢のよう。
「いつも何かを失う予感がある」。冒頭、語られる少女の言葉が全てを物語っている。僕らは無数の可能性の中で生き、可能性の一つを選び取ることで生きることを続けている。選ばれなかった可能性は失われていき、選ばれた可能性にしても、達成されることで、やはり失われてしまう。その喪失の日々に気づかないフリをしていても、ふとした時に思い出す。「いつも何かを失う予感がある」。それは僕たちの実感なのかもしれない。
ストーリー展開は強引だけど、鮮やかな色彩で描かれる感傷的な作風は、忘れてしまった大事な記憶を呼び覚ましてくれる素敵な映画体験でした。