「藤子・F・不二雄先生の集大成。」映画ドラえもん のび太と銀河超特急 TAKEさんの映画レビュー(感想・評価)
藤子・F・不二雄先生の集大成。
舞台
これまでドラえもん映画は恐竜の時代、宇宙、ファンタジーな世界など様々な世界を冒険してきましたが、大長編はひとつのテーマの世界のみを冒険するのが普通でした。しかしこの作品は、今は亡き藤子先生がこれでもか!というくらい自分の趣味を、世界観を崩すことなく詰め込んだ快作だと思います。一応は宇宙を走る機関車、つまりは宇宙が舞台ですが、テーマパークと称して西部、忍者、ファンタジー、モンスター、そして恐竜の星をドラえもんたちはそれぞれ遊び、冒険します。先生の好き、つまりは子供たちが大好きな物ばかりがこの作品の舞台となっているためとてもワクワクさせられます。たくさんの冒険が2時間近くの中にぎゅっと収められている、一つで二度・三度以上の冒険が味わえると思えばなんとお得なのかと感じさせられます。
おはなし
今作はミステリー列車が舞台なため、企業側が用意した謎やドッキリ、演出を楽しむためのミステリーから、後半はエイリアンによるSFパニックミステリーに変わるのが素晴らしい。
はじめはドリーマーズランドが舞台。ゲストを招いてデモンストレーションを兼ねたテーマパークのお披露目というのもあるため、ゲストに説明なしの強盗ショー(しかも現実世界で言う非常通路ともいえるどこでもドアを塞ぐという強引さ)、世界観を守りすぎるがゆえの柔軟性の欠如(忍者を体験したいのに基礎体力をつけさせようと修行させる、恐竜に襲われて服が破けたり劇中では起らなかったが捕食されるというリアルすぎる演出)、待ち時間を短縮させるために行う対応などがずさんだったり(人気がありすぎる白雪姫のお姫様役は7人で同時進行。当然選ばれなかったゲストから苦情が・・・)とまだまだ問題が多いがそれでもゲストの安全を最優先に考えており、初めにミステリートレインとうたっているため列車強盗もドッキリとショーと割り切ればまだ納得できる。そのほかのサービスも列車が客車になったり食事やお風呂、ゲームなどのルームサービスは無料(と思われる)、アトラクションはどれも魅力的な物ばかり。さすが未来のテーマパークともいえるが、背景にはゴールドラッシュのような産業による廃れつつある星の住人たちの一大事業でもあるという生々しい裏設定がリアルさを作り、流石はF先生ともいえるリアリティーを出しています。
そして途中からゲストの安全を第一に考え徹底されているドリーマーズランドをもってしても防げなかった寄生生命体ヤドリによってどんどんと仲間が寄生される、ドラえもんたちが訳も分からないままロボットや遊具を暴走させられ町が破壊されていく、他の人たちもどんどんと捕まっていき間もなく寄生されるために閉じ込められるなど、しずかが恐竜の星でただならぬ気配を感じ始めたところから楽しかった空気が一変し子供向けアドベンチャー映画から宇宙人に寄生されて孤立していくパニック映画に様変わりしてしまう。終盤まで対処法がわからず敵の策略で四次元ポケットを封じられ、なすすべがなく逃げるしかなかったドラえもんたちに絶望感が漂う。本当に子供向けかと思うほど作りこまれていると感じさせる。
このヤドリというヴィランもドラえもんヴィラン史上最も厄介な相手だったと言っても過言ではないほど凶悪で、まずすごく小さくてヤドリ一体一体が移動に使う宇宙船もおもちゃか流れ星と思われるほど小さく、それに反して精巧なため警戒されづらい、一瞬で体に寄生して乗り移ることができ、さらに乗り移った相手の記憶なども把握してしまうため警備員に乗り移って警備システムに潜り込み上官などからの話も合わせられたり複雑なはずの警備システムを破壊したりできる。スネ夫に乗り移った個体はドラえもんたち無事なメンバーの人数をちゃんと把握していた。さらに簡単に別の体に乗り移ることもできるためのび太に乗り移り、自分を気絶させたボームを真っ先に殺傷力の高いハンマーで攻撃をするなど執念深く根に持つほど凶悪、ロボットも操れる、そして何より数が多いなど、しずかが風呂で偶然倒して弱点を見つけられなかったらドラえもんたちは敗北していたかもしれないくらいの強敵だった。そう言わしめる相手がピリカ星で無双したときのピリカ人よりも小さな存在というのも皮肉が効いてる。まさに敵を見かけで判断してはいけないというのを体現した存在と言えるだろう。しかし、今回は人間側の持っている武器とその場に居合わせた相手が悪かった。悪すぎた。何せ自分たちの弱点である石鹸の泡を発射させる道具の形状が銃型で、乗り移ろうとしていた人間側に射撃の天才のび太がいたのだから。
キャラの活躍
ドラえもんは終始引率の保護者のような立ち位置で、のび太たちに列車の手配や説明をしている印象が強い。しかもお約束というか大人の事情というか、後半は四次元ポケットを封じられ、あまり目立った活躍をしなくなった印象だった。
しずかもやはりというかお風呂に入ったり恐竜に怯えたりあまりぱっとした活躍がなかったが、彼女がヤドリの弱点を偶然発見したおかげでヤドリに勝利したため実は何気に勝利の立役者だったりする。のび太をヤドリから解放するときも何気に格好いい。
そして実はしずかのフルヌードはこの作品を境になくなったともいわれている。
スネ夫はいつものようにのび太を仲間外れにして難癖つけたりしたがかなり早い段階で自分も(しかも一番早く)仲間に入って、みんなと楽しんでいたが途中ヤドリに体を乗っ取られみんなを裏切る姿は視聴者を絶望に叩き落としたことだろう。
ちなみに「のび太は映画になると格好いいことを言う。」というメタ発言はファンの間では語り草。
ジャイアンはスネ夫をこき使うなど相変わらずな姿だったが今回の影のMVPともいえる脱出用の列車を見つけるという活躍を見せる。ある意味前半は変わらない安心感、後半は絶望から希望に導く安心感を与える役割をもっていたキャラだったと言える。忍者の星で手に入れた道具で忍法壁抜けをして帰ってきたときは、恐らく私が初めて見た複線回収の瞬間だったかもしれない。
そして今回はのび太の活躍が異常だった作品と言える。列車では信号弾を放つ大砲で一発も外すことなく相手に当てる。しかも初見かつ初めて使って宇宙というハンデがあって。そしてドリーマーズランドではその実力をいかんなく発揮。この星での保安官になるための実技テストでは缶を撃ち上げそのまま残弾全てを命中させる離れ業をやってみせ、悪役ロボット4体を反撃させる暇を与えないまま瞬殺し保安官になる。最終決戦ではみんなが一丁だけで戦う中一人だけ二丁拳銃でこれまた百発百中で飛んでるヤドリを撃ち落とす。そして最後は親玉のヤドリ大帝を油断させ一瞬でポケットから銃(の形をした石鹸スプレー)を抜き撃ち落とし勝利した。結構いろんな人は、最後はあっけなかったと言うけど、空中を移動するあんな小さな的にその日に持った異質な形のスプレーで丸腰と見せかけて後ろポケットから抜き取り撃って当てる、しかも一瞬でということを忘れてはいけない。つまり達人の技と勝負は一瞬で決まるというのを体現しているのだ。他にとりえはないけど、とドラえもんは言うがのび太が射撃に関しては抜きんでた存在かがこの作品以降印象付けられたことだろう。そののび太の実力も知らないアストンたちの野次を涼しい顔で横を通り過ぎるのもその実力の表れともいえるシーンだから大好きでした。
それにゲストキャラもちゃんと役割を持っていて、車掌さんはかわいい見た目に反して職務を全うするちゃんとした存在、アストンはヤドリの被害者第一号で最後は責任を感じてドリーマーズランド再建を約束、ジェーンとドンはジャイアンでも見つけられなかった機関車を先に見付けてて禁断の星脱出に役立った。
そしてこの作品でバンホーさん、パルパルのような大人ポジションのボームさん。小太りな見た目に反してあまりにも有能、腕っぷしの強さ、子供たちを邪魔者扱いするわけでもなく過保護に守ろうとするわけでもなく逆に自分もなんにでも首を突っ込み、アストンたちのように人を見かけで判断しない良い人すぎて初めは裏があるキャラかと思ったら本当にただのいい人。
というように今作ではそれぞれのキャラクターに役割があって、時々起こるあのキャラ必要だった?みたいな感じのキャラクターが少ないのも好きな理由かもしれません。
音楽
ドラえもんのBGMはどれも素晴らしく、今作も聞き馴染みがある曲や僕ドラえもんなどみんなが知っている歌も挿入歌で流れる。
特にこの映画だけで流れる銀河超特急が現れた時や中央惑星でドラえもんたちが隠れるシーン、脱出の時などに流れるバイオリンで奏でられる音楽は映画館という臨場感を感じる場所で聞くとまた感動的で、いい意味でドラえもんらしくない荘厳な音楽だと感じました。
エンディングは海援隊の優しいタッチの歌で、出会いと別れ、始まりと終わりなど列車の旅で感じるノスタルジックな雰囲気を壊さない素晴らしいエンディングだと思います。
まとめると・・・。
ドラえもん映画はどれも素晴らしいですが本作は抜きんでて素晴らしい作品だと感じました。これが藤子F不二雄先生が最後に描ききった作品だと思うとまた違った見方をしてしまいます。機関車に興味がない人でも映画が好きならこの作品は絶対に楽しめる作品だと思います。