ジョゼと虎と魚たち(2003)のレビュー・感想・評価
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田辺聖子の思想を見た。
韓国版と全く違う別物である。始まりはあまり好みのスタートではなかったが徐々にこの作品に込められた本質が見えてくる。関西在住者及び居住経験者には極めて理解が及ぶ作品へと進化する。各俳優の出身地に分からわなぬ設定である点も関西の持つ独特の抒情がよく出て好感を持てた。慣れない方言を俳優に強要した作品ほどしらける作品は無いからだ。その点この作品は細部までよく作ってある。特に池脇千鶴の関西弁が田辺聖子の思想をよく体現している。5歳下の新人、上野樹里を強烈に演技で突き上げる。妻夫木も基本好きな俳優ではないがいつも作品の後半ではやられてしまう。いい俳優と言わざるを得ない。それにしてもこの作品の構成は見事である。人間の本質のいやらしさをこれほど正面から描いた作品をあまり知らない。普通の人間が普通に暮らしている中で差別だけにある意味救いがない。救いがない中でうまれる池脇の強さで我々は救われる構図になっているところが実に素晴らしい。傑作である。
アニメのハッピーエンドが物足りなく感じるリアルな物語
子供と一緒にアニメ版を観て、素直に「とても良かった」と感じ、後に調べて随分と前に実写版が作られており、さらに近年韓国版も出たと知って、今回こちらの2003年を観た。
アニメ版では、ジョゼの家には破格の時給で恒夫を管理人として雇うだけの余裕はあり、家も古いけれど趣があり、ジョゼには絵の才能もあった。逆に恒夫は両親が離婚していて苦学生で、しまいには事故で足を怪我をしてジョゼの苦しみが少し理解できた。ジョゼに下駄を履かして恒夫にもハンディを与えたことで、二人が対等になったからこそ愛ストーリーとして楽しめたのだと思う。
一方、実写版は打って変わって陰湿な雰囲気が漂う。「そこのみにて光輝く」の池脇千鶴がジョゼ役で、同じ空気感がある。ジョゼは施設出身で長屋暮らし。暮らしぶりは貧しい。ジョゼの祖母も悪態ばかりつく幼馴染も不気味だし、拾ってきた本や教科書からの知識は豊富だけど偏っていて恒夫に言わせると「変なことばっかよく知っている」。
恒夫にはセフレやクラスメートの気になる女の子がいて、女の子に困っている感じは全くない健全な大学生の男の子だ。ツンツン立った髪に象徴される軽薄さも、どこにでもいる普通の男の子らしさがある。そして、アニメ版と決定的に違うのは、田舎の両親や同じく都会で暮らす弟の存在だろう。都会で暮らす息子二人のためのダンボールいっぱいに野菜やらタッパー入りの明太子やらを送ってくれるような家庭だ。田舎のごくごく普通の善良な親に育てられた兄弟なんだと分かる。
つまり実写版でのジョゼと恒夫は非常に不釣り合いなのだ。違和感がある。恒夫はジョゼに与える存在でしかなく、惹かれる理由がよく分からない。最初は好奇心と同情だったであろう。
二人が最初に体を重ねるシーン。ジョゼが服を脱いでブラジャーを外すのを見ながら、恒夫は感極まって「泣きそうだ」と言う。セフレやクラスメートの女の子で経験があってそういうことには困っていない恒夫の純情が見られるシーンだ。
その後も、少なくとも恒夫にとっては、ジョゼとの関係は自然な恋愛として捉えているような場面がいくつかある。ジョゼの家に引っ越す時に、ジョゼが読んでいた教科書の持ち主の後輩を手伝わせてた時に「障がい者と初めて喋った」という後輩に対して「おれも」と笑うところとか、弟には隠すことなくジョゼと暮らしていることを伝えているところとか。普通の男たちの子がたまたま障害のあるジョゼと付き合っているのだ。
実写版では二人だけの世界と周囲の人たちも含めた世界での揺れ動きがしっかりと描かれている。ボーイフレンドを取られたクラスメートはジョゼに文句を言いにいき平手打ちをかますし、弟とのやり取りも恒夫を現実に引き戻す効力がある。二人の関係は外から見ると歪で無理がある。
二人だけの世界がずっと続けばいいと観ながら思ったが、それは恒夫も同じだっただろう。法事に出るために田舎へドライブする旅行で、車から降りると恒夫はジョゼをおんぶしている。車いすを「いらない」と言うジョゼを、ずっと背負い続けるのは大変だ。
恒夫は「俺だっていつか年取るんだし」と言うが、ジョゼとの暮らしがずっと続くように思って言った言葉だろうけれど、口に出した途端に、その将来に現実味がないことを悟る。ジョゼは恒夫おぶればいいと言いつつ、車いすを使わないことで恒夫にジョゼを背負うことの大変さを実感させたのだと思う。
障害者用のバスルームの中でトイレに座るジョゼに恒夫が抱きつくシーンは本当に切ない。彼の心が折れてしまった瞬間だ。両親にジョゼを会わせられない、ジョゼをずっと背負ってはいけないと。ジョゼは二人の関係に未来がないことをずっと知っていたんだと、恒夫が気づいた瞬間でもあっただろう。
別れた後のジョゼは電動の車いすで颯爽と進んでいる。一方、恒夫は平手打ちの元カノとよりを戻しているものの歩道で泣き崩れている。
「別れても友達になれる種類の女の子がいるけど、ジョゼは違う。ぼくがジョゼに会うことはもう二度とないと思う。」これで、恒夫にとってジョゼがいかに愛しくて大切でかけがえのない存在であったのかがよく分かる。
恒夫はあまりにも普通の男の子で白馬の王子様にはなれなかったけれど、恒夫との恋愛を通じてジョゼは外の世界へ踏み出していく。魚のホテルで予言したように、恒夫がいなくなった後もきっとジョゼは大丈夫だろう。
ハッピーエンドではないけれど大丈夫を感じさせる、リアルな物語だった。
少女と男の子の境遇の違いと切ない恋愛を描いた青春映画
外界から閉ざされた少女と偶然出会った大学生との、今どきの若者の恋愛関係を純情と偽善の微妙な視点で描いた青春映画。読書生活漬けの身障者の少女の理屈と意固地な性格設定は理解できるが、妻夫木聡演じる“男の子”の優柔不断さがそのままに、この物語を追憶するナレーションの視点に客観性不足があり、結局(自分の何を見てもらいたいのか)の人物表現としての弱さがある。少女と別れて、その足で元カノと街を歩く主人公が道端で涙を流し泣くシーンには、男の子の馬鹿正直さを認めるが、やはり情けないだけで、映画としての表現までになっていない。この男の子の危うい存在感は表現されていると思うが、脚本と演出まで同じレベルにする必要はないはずである。田辺聖子の小説の作意から、映画表現へ転化したものが感じられなかった。時代設定も今一理解できない。役者はいい。妻夫木も池脇千鶴も難役を好演している。もっと良い映画にできる題材だと思う。
まじ妻夫木許すまじ
原作未読。劇場公開時鑑賞。
そんなことになってるなんて知らなくて、池脇さんがががががが妻夫木何やってんだコラーと取り乱してた。ああ、恥ずかしい。
アニメ版も近年観たし、こちらは原作から改変されているようだが、良し悪しは別として、こちらが好きだと思う。すんなりいったら、今でも心に残るような映画にはなっていなかったと思う。
素敵な恋物語
アニメ版を観るにあたって、つい懐かしくて借りてしまいました。
かなりクセの強い立ち上がりで惹きつけられます。
仕送りの食材での兄弟の会話と、その横でパイをガン見してる中学生がとてもリアル。
他にもどこか憎めないDQN幸治にチーム蒼天龍。「鳩が出るよ?」のサーファーなど細い演出が多いのも面白い。
何より、ぶっきらぼうなジョゼがすごい可愛いらしく、とても魅力的。
対して恒夫が本当何処にでも居るような大学生で、だらしないけど憎めない感じですね。
乳母車の二人乗りは世間の目やしがらみから解放されるような、とても良いシーンだった。
当時話題になったベッドシーンは、いやらしさよりもどこか可愛らしい印象。
そして何より池脇千鶴のクソ度胸でしょう、実に役者です。
その出会いから落ちるべきして恋に落ちる二人、だからこそ静かに終わる二人なんでしょう。
今観てもすっとする、素敵な恋物語でした。
主演の2人。すごい。
妻夫木くんお池脇千鶴、すごく良い。日常って感じの雰囲気も良い。
障がい者と付き合ってビビって逃げるのはなしだろって思うけど、自分がその立場だと…。
最後、すごく悲しい。
妻夫木君のダメっぷりに納得
妻夫木聡さんは、よくこの役を引き受けたなと思うくらい、ダメな男を演じています。
でも、そうゆう、弱さみたいな部分を自然体で演じれるのが彼の魅力なんですかね。
対して、池脇千鶴の、障害を持ちながら、強く、奔放に生きるキャラクターに納得しました。女の人って、強いよなと妙に感心したりして。
ストーリーは後味良くは終わりません。感動のラブストーリーを期待する人にはおすすめできませんね。
2013.3.1
作品にすごく勢いを感じる
ずっと前から見ようと思っていて・・・
今まで見ないでいたので、プライムでなんとなく視聴。
一番印象に残ったのは上野樹里のビンタ。
ジョゼにビンタ食らわして、自分も顔を差し出してビンタ食らうところが好きです。
すごいフェアな女の子。
健常者と障がい者のケンカではなく、普通の女の子同士のケンカです。
もはや相手を障がい者として見てない。恋のライバルとしか見てない。
障がいという垣根を越えて、本物のコミュニケーションをしている。
こんなケンカができるなんて、ジョゼも幸せな気持ちになったんじゃないかな?
健常者の薄情は障がい者を強くした
「にいちゃん、怯んだと?」
これに尽きる。
恒夫は障害を持つジョゼを親に紹介する機会を自ら放棄、ジョゼは始めから「そんなことあるわけない」と達観してた。
「その後数ヶ月一緒に棲んだ」
のは恒夫に負い目を持たせないジョゼの優しさかもしれない。
ラストの電動ジョゼの逞しい瞳にはもう誰も映りこむことはないのだろうね。
若さとは、時に優しくてそして残酷で
過去形から始まる2人の物語 車椅子を買おうと提案する恒雄に あんた...
悪くはないけど未来があるアニメ版のほうが好き
アニメ版を先に見て、その批評を先に読んでいたため、もっと身障者のことを掘り下げてドロドロと描いている映画かと思ったら、そんなことはなかった。身障者が云々ということにこだわって観るのでなく、「たまたま好きになった相手が身障者だった、その出会いと別れを描いた作品」という観方のほうがしっくりくる。
僕が別れた理由は、だいたい100個くらいあって、1つめは・・・
哭く
おいおいと哭くラストが印象的である。果たせなかった悔悟と解き放たれた不安か。男の恋愛心が話の軸になり、妻夫木聡の表情にでる不足と充足の変化の機微に目がいく。水族館閉鎖の後の重たい疲れ感、サービスエリアで何気に将来を約し、その保証のなさに確かめるように縋り付く姿。犬のようでもある。
ジョゼを演じる池脇千鶴は、やはり自我が崩れず周囲に安定をもたらす。むしろ男の方が不安定で振り回されている。障がい者像を覆す演出は特筆すべきもの。助けを求めて縋るのではなく、心を埋めることを求めて男を欲する。そして、ふたりの関係を悟り、自ら決裁する。貝殻のベッドにあって、回る魚のイルミネーションが身体に映り込むシーンが美しい。
新井浩文のキャラは、天涯孤独との縁を切る要素となり、ジョゼの自立性を高めている。あまりの無茶苦茶に苦笑い。初々しい上野樹里はジーンズがよく似合う。張り手の応酬に背を向ける少女との構図が楽しい。そして、冒頭から圧巻の婆役の新屋英子。この舞台設定を一目で表現する。
お前、何様や思とんのや。お前は壊れもんや
映画「ジョゼと虎と魚たち(2003)」(犬童一心監督)から。
作家・田辺聖子さんの短編小説の中に書かれている原作も読み、
映画のアニメ作品も観ての感想は、この作品が、一番よかった。
20年ほど前に公開されたけど、今なら「差別表現」で、
ネット上では大炎上してしまうのでは?と思うほどだった。
「足が不自由」というだけの障がいなのに、
世の中と隔離される、本人も仕方ないと諦めるなどなど、
これが少し前までの現状として、私は再認識させられた。
昼間、車椅子で出かけただけで、
「お前、何様や思とんのや。お前は壊れもんや、
壊れもんには壊れもんの分ゆうもんがあるやろ。
世間様に何の役にも立てんのに、
いっちょ前に遊んどるやないがな。バチ、あたるぜ」と、
祖母から叱咤される。
さらに、障がい者自身が生活環境を「深い深い海の底」に例え、
「そこには、光も音もなくて、風も吹かへんし雨も降らへんで、
シーンと静かやねん」と表現した。
「寂しいじゃん」と感想を口にした健常者に対し、
「別に寂しくはない。初めからなんにもないねんもん。
ただゆっくりゆっくり時間が過ぎていくだけや」と付け加えた。
そして「いつか、あんたがおらんようになったら、
迷子の貝殻みたいに独りぼっちで、
海の底をコロコロ転がり続けることになるんやろ。
でもまぁそれもまた良しや」と続けるシーン。
正直、胸が締め付けられるようで、泣けた・・。
「東京2020パラリンピック」で感動した人、必見!!。
キスシーン長め
3人の女とのラブシーン、かなり生々しくて子供とは観てはならない映画。
主人公がなぜジョゼに惹かれたのか?現状から救い出したかったのだろうか?案外あっさり別れた割には引きずっているようだったし。何より一度振られた樹里さん、元サヤに戻るのが信じられなかった。真っ暗な海底から地上に出られた事は恋愛がキッカケだったと思う。それは非常に良かった。
ハイウェイ
ジョゼに障害があったから、恒夫は逃げた。
そういう風に観た当時は思っていました。
死んだり、ハッピーエンドだったりするような
奇を衒った映画ではなく、リアルだよね。逃げちゃうんだもん。
なんて風に語ったりしていました。
だけど、最近思うのは障害は関係なくって
男と女、恋愛というもの自体が何かのきっかけで簡単に
脆く崩れ去ってしまうんだってこと。
ジョゼが台所の椅子から飛び降りたときの
ドンって音が、ジョゼの話し方が、ジョゼの家のご飯が、
とても好きです。
全112件中、21~40件目を表示











