「懐い夏はあつい。映画館で観れて良かった。」海がきこえる 兵庫の兄やんさんの映画レビュー(感想・評価)
懐い夏はあつい。映画館で観れて良かった。
12歳の春、偶然テレビ放映で観て深く心に刻まれた作品。小僧の私は遥かに年上のようなしっかりした主人公達にすごく憧れた。
もはやこの作品は、私にとってなくてはならない人生の重要なスパイスと言えるのだ。
包容力があり明朗快活、好青年で完璧ではなく少し隙も見せてくれる杜崎拓。我儘で奔放で拓を存分に振り回す武藤里伽子。そして深い優しさを持ち、静かで穏やかな松野豊。
とても魅力的な3人だが、とりわけ里伽子の破壊力は凄まじい。
序盤の謎の美少女からベールを脱ぐやいなや文武両道で、周りに迎合しないスタイル。孤高の人。
やはりカッコいいと思ってしまった。
憧れるのをやめられない。
そうなのだ。もう31年前のことだが、思春期を迎える頃の私は里伽子にすっかり心を奪われた。
現実に戻るのが名残惜しいくらいに強烈に惹きつけられた。魔法にかけられたように。
今となってはかけがえのない思い出だ。
生涯忘れることはないだろう。
懐かしく愛しい作品を観終えて感じたのは、静かな心の響きだ。以前のような胸の高鳴りではない。
青春時代只中に生きる3人の心は愛に溢れ、どこまでも爽やかで溌剌として綺麗だ。
人生で本当に大切なことがそこはかとなく心に伝わってくる。今年で44歳になる私は年を重ねたことで物事の本質を冷静かつ俯瞰的に捉えるようになれたのであろう。
そして作品は私にまたしても変化をもたらせた。
12歳の遠いあの日に思いを馳せたり、半生を振り返ったり、まるで自分の心が原点に戻っていくような不思議な日々を送っているのだ。それからしみじみと人生の素晴らしさと今を生きている喜びを感じるのである。
長い時を経てついに作品の真骨頂を見た。
いつかまた必ず観に行きたい。
美しく青く澄んだ心と再会し、ふれあうために。
それまでは頑張って生きてゆく。
いつでも彼らは優しく迎えてくれる。
私にとってこの作品は心の故郷になったのだ。