「自分の本心にウソをつく恋愛劇」海がきこえる vanquishさんの映画レビュー(感想・評価)
自分の本心にウソをつく恋愛劇
リバイバル上映で観ました。ロスジェネ世代にはぶっ刺さりまくる作品です。
公開が1993年ですから日銀、財務省、自公政権による失策で「失われた30年」という戦後日本経済が経験する長期デフレによる不況、緊縮財政に突入した年に公開された因縁のジブリ作品なのです。
私は同じ時代に高校生かつ、幸か不幸かリアル三角関係を経験してしまった。
結論から申し上げますと杜崎 拓と武藤 里伽子は相思相愛だったのです。
拓の親友 松野 豊が里伽子に惚れてしまって杜崎が遠慮して身を引いたのですが密かに里伽子に惚れていた。ここには三角関係のブースト効果があって、杜崎と松野はブロマンス関係なのですが松野が好きな人は杜崎にもブーストが掛かって不思議と魅力度数倍増しになります。隣の芝生は青く見える効果といいますか里伽子に杜崎も惚れてしまいます。松野から電話が掛かってきてスリッパの毛を弄る描写からも松野を応援して盛り上がるはずがトーンダウンしてしまう杜崎の心情は友情>恋愛を心に決めているのです。物語は杜崎のモノローグが入りますが観客側は誘導されて杜崎の表層心理しかあらわしてしかいません。
杜崎が里伽子に惚れた瞬間はテニスコートで里伽子がスマッシュを打った時ですね
男性脳は結構単純で異性に対して一目惚れ的なのです。男性脳はまんべんなく女性が好きで減点方式なのです。ただ杜崎は里伽子のことを特異な視点で見ることになる。廊下の成績発表で里伽子のことを幸薄そうだと山尾に漏らしていたのが里伽子の変なところばかり見て減点にならない。東京旅行の付き添いも好きな女の子に対する典型的な男子の反応です。何も思っていなければ絶対高知空港まで行きません。
里伽子は元はどんな子かと言えば、東京成城のゆるふわお嬢様だった。
これが分かるシーンはティールームの岡田との会話から友達と彼氏がくっついても軽いノリ
だった。それが父親の不倫で高知に来て戦うお嬢様に変貌した。まるで毛並みのいい元飼い猫が、手負いの野良猫になって虚勢をはって懸命に生きている。
家庭の事情を知る杜崎に一瞬心を許したシーンがあって、成城のお嬢様らしからぬ脚を開いてベットに座った時ですね。本音を打ち明ける里伽子。しかし、GWの東京旅行から帰ってきたら里伽子は杜崎の事を無視します。だって高知では一人戦闘モードで虚勢を張っていないと負けてしまうからです。松野の告白に対する酷い仕打ちも里伽子が高知で一杯いっぱいでキャパシティに余裕がなく、闘っている私に告白する無神経さに強烈な拒絶反応が出た。東京では上手くいっていた学校生活が高知の学校生活で上手くいかないのは全部「高知」が悪いという認知バイアスにハマってしまったのです。
論理的には杜崎も松野も同じ高知弁喋る男ですから嫌いなはずである。
高知弁喋る男は嫌いという失言で杜崎まで傷つけてしまった里伽子。杜崎は松野を傷つけた怒りでビンタをかましますが、報復措置のビンタに僕は傷ついたという意味が入っています。それを「随分友達思いじゃない」と言って好意的に里伽子は返します。普通は「女に手をあげるなんて最低よ」と反撃します。里伽子は「もういいでしょ」と切り上げます。里伽子は杜崎を買っているんですね
里伽子が杜崎の事を好きになっていくのは、松野から杜崎の評価とバイトで働いているカッコイイ姿を見た時からでしょう。お金を貸してくれたり、東京まで付き添ってくれたり、見栄に付き合ってくれたり、家庭の事情を知っている典型的な理解のある彼君だった。また、問題やミッションを次々と解決していくのに快感を覚える男性脳の持ち主が杜崎だった。
女性脳はまんべくなく男性が嫌いで0点から加算方式で人を好きになっていくので「好き」の起こりが分かりにくい。その証拠につるし上げ後に杜崎にビンタをかましますが、あのビンタの意味は「なんで助けてくれなかったのか」と助けて欲しかった里伽子の気持ちが入っています。何も思っていない相手にビンタなんてかましません。里伽子は元は成城のお嬢様、ロマンチストで「好きな人には助けてもらいたい」欲求があった。つるし上げに泣かなかった里伽子が泣きそうな顔をしていたのに驚く杜崎。その顔を見て里伽子はみるみる湧いてくる感情の渦に呑まれて涙を流します。杜崎の事が好きなのだという感情に戸惑いその場を立ち去ります。
松野が杜崎をサウスポーで殴る意味は数年後語られますが、里伽子に振られた自分に遠慮していまだに義理立てしている杜崎にムカついたから殴ったのです。松野は本来の杜崎なら里伽子を助けるはずだと信用しているんですね。それをしなかった理由は杜崎が里伽子を好きで、松野に遠慮して里伽子を助けなかったと気がついたからです。杜崎は自分で松野に里伽子が泣いた理由をつるし上げで泣いたんじゃない、自分が助けなかったから泣いたんだとペラペラとしゃべってしまった。女が泣くのは男に情愛があるから泣くのであって、そこには深い感情がある。杜崎ほどの男子がペラペラと「生意気じゃ」「ちっとは懲りたろうよ」と悪くいうのは特定の女子に好意がある場合がほとんどです。その証拠に男子が特定の女子の悪口を言っていた後付き合ったりする。
また、松野は杜崎と里伽子が相思相愛で、それを邪魔をしていたのは自分であると気づかなかった憤りがあった。それを解消して杜崎と仲直りするまで時間が必要だった。
実際三角関係は修復できない可能性が高いです。私の場合は友情を失い、恋はフェードアウトしました。松野と杜崎は特別ですね。杜崎のように完全に身を引くという高度な技は高校生には無理なので、ポロポロ漏れてしまっているのがカワイイですね。実際無理です。恋のさや当ては先に当てたもの勝ちです。高校生は大人と子供が混じっていて当人たちは脳内のホルモンバランスが乱れて辛いのです。高校生特有の殺伐とした感じがリアルですね。
里伽子は杜崎の事を好きでも絶対に認める訳にいかない。それは里伽子が今まで張って来た虚勢と矜持と言動のため。対して、杜崎も里伽子の事を好きでも親友のため絶対に認める訳にはいかない。これは自分の本心にウソをつく恋愛劇だったのだ。
里伽子が杜崎を好きになったのかな?
高知にいる時の里伽子はどうやって東京の生活を取り戻すか、だけに全集中してたように見える。杜崎はただ、利用されただけ。
ただ、里伽子がパパにも東京の彼氏にも裏切られ、飛び込んだのは杜崎の胸の中。泣きつかれて、杜崎の作ってくれたコークハイを飲み、泣きつかれて眠る。
それだけ里伽子にとって杜崎はあの時点では安心出来る存在だったんだね〜。
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