「高知、夏、17歳」海がきこえる ストレンジラヴさんの映画レビュー(感想・評価)
高知、夏、17歳
「ああ、やっぱり僕は好きなんや…そう感じていた」
高知、夏、17歳。クラスメイトではないが親友同士の杜崎拓・松野豊と、東京からの転入生・武藤里伽子が織りなす揺れ動く青春群像劇。
氷室冴子の同名小説をスタジオジブリがアニメ化した本作だが、若手アニメーターによる実験作品という位置付けで、鈴木Pこそクレジットされているが、当時ジブリの最前線でバリバリやっていた宮崎駿・高畑勲両氏が一切関与していないという異色の作品である。また、上映時間が72分と短いことと、未成年の飲酒の描写があることからほとんどTV放映されたことがなく、幼稚園〜小学校低学年時代を「1日1ジブリ」で過ごしてきた僕にとってはなかなか手の届かない「剱岳」のような存在だった。その「剱岳」にようやく手が届いてから早12年、今般リバイバル上映が決定したため劇場で見ることにした。
僕は父の仕事の関係で小さい頃から引っ越しを繰り返してきたが、そのほとんどを東日本で過ごしてきたため西日本にはあまり遅延がない。四国に至ってはこれまでで2時間40分しか上陸経験がない。にも関わらず、土佐弁が何故か好きだ。割り切りの良さというか、勢いとカラッとした感じが何とも心地よいのだ。ここに夏の日差しが加われば鬼に金棒・虎に翼で、それだけで良作確定である。そして本作ならではの特色が「平成始まったばかり感」である。そこはかとないトレンディ感が終始漂っており、在りし日の日本に想いを馳せる愉しさもあるのがいい。実験作品ながら、各所に手堅さが見受けられて非常にまとまりがよく、僕は機会があれば何度でも観ることだろう。
しかし一方で、優等生すぎたのかもしれない。尖り具合が足りなかったせいか、残念ながら、スタジオジブリにおける実験作品は本作のみに終わり、結局スタジオジブリは今日に至るまでポスト宮崎駿・高畑勲を輩出できずにいる。本作を皮切りに定期的に同じような試みを続けていれば、違ったスタジオジブリが見られたかもしれないと思うと残念である。
僕は杜崎拓とは反対に、大学進学を機に東京→地方に移った。東京で大学生活を送っていないことは時に僕にとってコンプレックスになる場面もあった。だが本作を観るとこう感じる。地方で大学生活を送れてよかった。
物語の起点となる吉祥寺駅、向かいのフォームに武藤里伽子の姿をいつでも探す。こんな所にいるはずもないのに。
ああ、やっぱり僕は好きなんや...そう感じていた。
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