劇場公開日 2003年1月18日

「『おくりびと』同様に、セリフをセーブし、間をとって表情の変化だけで感情を表現する演出がなされておりました。それに合わせたカメラアングルやカット割りで見るものをぐいぐいと画面に引き込んでいきます。」壬生義士伝 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0『おくりびと』同様に、セリフをセーブし、間をとって表情の変化だけで感情を表現する演出がなされておりました。それに合わせたカメラアングルやカット割りで見るものをぐいぐいと画面に引き込んでいきます。

2009年4月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 MOVIXのワンコイン上映でやっていたので見ました。
 何年か前にレンタルで見た記憶もあったのですが、『おくりびと』の滝田監督作品と言うことを念頭に置きながら、演出方法や画作りを中心に見ていったので、ビデオで見たのときは、全然違って見えましたね。

 作品は、一見新撰組の話かと思いきや、そのなかの隊士吉村貫一郎の生き様に強烈に語りかけた作品でした。
 今見ると『おくりびと』同様に、セリフをセーブし、間をとって表情の変化だけで登場人物の感情を表現する演出がなされておりました。それに合わせたカメラアングルやカット割りで見るものをぐいぐいと画面に引き込んでいきます。特に泣かせるシーンの作り方が上手すぎて、何度も涙をぽろぽろこぼす羽目になりました。
 やはり滝田監督は、ずっと前から天才だったのですね。名優中井貴一のポテンシャルを極限まで絞り出すような演出でした。

 その中田が演じる吉村貫一郎の面白いところは、剣の腕は立つのに惚けたお人好しの田舎侍で通すところ。この物語は明治以降も生き延びた斎藤一が、吉村の義理の息子に語っている形で進行しているのですが、その斉藤が余りのうざったさに、辻斬りにしようと襲ったほどのものだったのです。
 さらに金には強欲。近藤隊長に給金についていちいち駆け引きする始末。武士にあるまじき欲深さでした。
 しかし、一度剣を交えれば、剣豪に豹変。そして武士の義において、見かけとは違って頑なに徳川幕府に忠義を貫こうとしたのです。
 この二面性を巧みに演じ分けている中田の演技が素晴らしい!
 圧巻は、ラストに切腹を覚悟するシーン、約10分に及ぶ自問自答により、家族に対し先に死んでいく許しを請う一人芝居には、画面に引き付けられました。

 当初吉村を人一倍嫌っていた斉藤は、義に熱い彼の本性をとことん惚れ込んで行きます。反発しながらも、唯一無二の存在になっていく吉村と斉藤との関係の描き方も良かったですね。
 斉藤の話を聞いていた吉村の義理の息子が、吉村の最期を語ったとき、思わず涙ぐむ斉藤に感動しました。あれほど家族のために逃げろ、生きろと言って聞かせたのに、無念であったのでしょう。一匹狼の斎藤一を真に理解し得たのは、生涯で吉村ただ一人であったろうと思います。ニヒルな斎藤を演じた佐藤浩市もドンピシャでした。

 そして吉村が脱藩せざるを得なかった経緯も感涙もの。愛する妻とのなれそめ。貧しい生活に襲いかかる飢饉。家族の口減らしのために身もごった子供ごと入水自殺使用とする妻を前にして、脱藩を決意し、心を鬼にして子らと別れるシーンが涙を誘いました。
 滝田監督は、特に家族の絆を描くのが上手い監督ですね。

 かつての親友であり今は南部藩の差配役となり、吉村に断腸の思いで切腹を命じるった大野次郎右衛門を三宅裕司の演技も良かったです。

 金のためには、どんな汚い仕事も引き受けた吉村ではありましたが、根底の部分では、頑なに南部藩士としての名誉を守り抜きました。そのまっすぐな生き様は、息子まで徹底していたのです。きっと彼の生き方に、深く共感されることでしょう。

流山の小地蔵