「難点は分かりにくさとイカロスレース」映画ドラえもん のび太と翼の勇者たち 蟒蛇さんの映画レビュー(感想・評価)
難点は分かりにくさとイカロスレース
全体的なストーリー構成は好きなのだけど、調べてみたら原作を端折っていて分かりにくくなっている部分があったのと、イカロスレースの顛末が酷すぎたので☆3。
まず、映画だと勇者イカロスがグースケの父親だということが分かりにくくなっている。
原作コミックだと、グースケが落下した嵐の日にイカロスと連れ添っていた女性が夫婦であることが分かるセリフが入っていたり、イカロスがグースケは成長した自分の子だとハッキリ気づくシーンが入っていたり、亡き妻に息子が立派に育っていたことを報告するシーンがあるみたいだけど、映画版ではすべて改変&カットされている。
自分はウェブで検索するまでイカロスがグースケの実父だという設定に気づかなかった。グースケが籠から落下してしまったあの嵐の日に、グースケの母を家まで護衛してただけの存在だと思っていた。
そして、問題のイカロスレース……
過去のトラウマから自分の翼で飛べないグースケが補助器具を使ってレースに出るも完走後に優勝を取り消され、今後は自分の翼でしか参加を認めないという宣言までされるが、その後とあるキッカケで自分の翼で飛べるようになったことで周囲の者に祝福されて、次の年には自分の翼でレースに出場できたことがハッピーエンドとして描かれているけれど……
何らかの特別な手続きなどなしに補助器具でレース参加が認められたのを見るに、補助器具を使った飛行も己の筋力とスキルで飛ぶこと=ズルではないと正式に認められていたことが伺える。
それなのに完走後に突然優勝を取り消され、そもそも優勝を取り消したのは審査員の当てつけなのにそれも有耶無耶になったまま。
グースケ以外にも補助器具で出場してた者たちがいたけれど、その者たちは変わらず排除されたままなのに、いったいどこがハッピーエンドなのか。
レース終盤でトップに立ったグースケに対して、補助器具を使って楽するなんて卑怯だ!と口にしたツバクローが、ふと顔を上げるとグースケも汗を流しながら必死でペダルを漕いでいることに気づいて己の歪んだ認識を改めるっていうシーンがあるのに、結局上記のような展開になるならこの素晴らしいシーンが霞んでしまうじゃないか。
ナチュラルに優生思想と能力主義を是とするんじゃないよ……それも子ども向けの作品で……
そういうことに無自覚な時代だったのだろうけど、それを踏まえたとしてもこれはさすがに酷いなと思う。
世代ドンピシャなのと、イカロスのカッコ良さと素敵な主題歌のおかげで、作品自体を嫌いにならずに済んでいるところがある。